故・金大中大統領が1998年に掲げた観光立国政策が功を奏し、韓国は日本で「安・近・短」海外旅行の代名詞になった。2002年の『冬のソナタ』で韓流ブームが起こると、これまで韓国に縁のなかった女性たちが、こぞって海を渡るようになった。
ところが、昨年8月以降は事態が一変。李明博前大統領の竹島上陸と天皇冒涜発言を機に、日本人の嫌韓感情が爆発し、その後の円安・ウォン高、今年3月以降は北朝鮮ミサイル問題が追い撃ちをかけ、日本人観光客が姿を消した。
「日本人客が明らかに激減しはじめたのは昨年9月ごろ。売り上げは6割以上ダウンし、店は客の奪い合いだ。家賃が払えず店を畳む同業者も多い」とは、ソウルの繁華街・明洞で飲食店を営む男性だ。
日本人向け観光ガイド歴10年の女性も嘆息する。
「以前は客を知り合いの飲食店やエステに紹介して得るマージンが収入の大半を占めていたが、それもなくなり廃業するガイドが増えている」
窮地に立たされた観光業者からは、李明博前大統領に対する恨み節も聞こえてくる。明洞でコスメショップを経営する30代女性は憤る。
「正直なところ、我々にとっては独島(竹島)より日本人が落とす円の方が大切だ。李明博の反日パフォーマンスは祖国に対する自爆経済テロだ」
韓国旅行業協会によると、今年3月19日から4月15日までに加盟上位19社が受け入れた日本人観光客は8万8122人で、前年同期比33.4%減。同協会は「北朝鮮の脅威と円安が主要因」とし、韓国政府に対し日本人観光客誘致費用の緊急支援要請を行なった。
「日本人客が減る一方で中国人客が増えているから、全体的な数は横ばいです。ただ、ブランド意識の高い中国人がお金を落とすのは高級ホテルやレストラン、免税店などに限られます。観光産業全体では、かなり大きなダメージがあるでしょう」
と話すのは、時事通信社時代にソウル駐在経験のある評論家の室谷克実氏だ。
※SAPIO2013年7月号