尖閣周辺では中国空軍の示威行為が始まっている。大量飛来する敵の最新鋭機に、わが自衛隊機はどこまで応戦できるのか。
* * *
現時点での戦力は自衛隊が圧倒的優勢を保っていると言っていい。いくら最新鋭機の数を揃えても、パイロットの技量と練度で中国空軍は航空自衛隊の足元にも及ばないからだ。AWACSを主体とする世界有数の空中警戒管制システムと連携すれば、敵機の領空侵犯阻止は頭上の蝿を追い払うごとく容易いことだ。
示威行為を続ける中国空軍と万が一にも尖閣周辺空域で偶発的な衝突が起きた場合は、那覇だけでなく九州の築城・新田原両基地からも自衛隊機が飛び立ち応戦する。状況次第では、空対空ミサイルで迎撃することになるだろう。現代の空中戦では可能性は低いが、ドッグファイトとなれば、技量に勝る自衛隊が圧勝する。ただし現状の交戦規定では、事実上「撃たれるまで手を出せない」のだから、自衛隊機の損失、パイロットの命が失われる事態も免れない。
さらに問題なのは、敵が数に物を言わせ波状攻撃を仕掛けてきた場合だ。パイロットの充員、機体の補修、燃料・武器・弾薬の補充が設想(シミュレーション)通りに運ぶかは甚だ疑問である。航空自衛隊単独で考えると、継戦能力は最大で1か月程度だ。
有事になれば、東京・十条の補給本部を筆頭に、埼玉・入間、千葉・木更津、岐阜の各補給所から燃料・武器・弾薬を遠く離れた沖縄へ輸送することになる。敵の攻撃で混乱が生じれば補給が滞ることも当然あるだろう。
航空自衛隊のパイロットは総員の3%(約1500人)と言われ、慢性的な人手不足に悩まされている。交戦状態にならなくても、中国空軍機の大量飛来が常態化すれば、パイロットと機体はフル稼働を強いられ、現状の稼働率を維持できなくなる。敵の狙いは航空自衛隊の疲弊と混乱だ。
中国空軍は近年、北京大学や清華大学などの名門校にパイロット養成部署を設け、毎年300人以上を新規採用している。この勢いで装備の近代化とエリート兵士の育成を進めれば、中国空軍の精強化が一段と進むのは間違いない。
航空自衛隊と中国空軍の関係はイソップ童話の「ウサギとカメ」にたとえられる。交戦規定すら見直されず、現状優勢に安穏としていれば、やがてカメは音もなく背後に迫ってくるだろう。
※SAPIO2013年7月号