国民にとって「共産党」という党名と、その主義・主張に対するアレルギーは強い。だが、東京都議会議員選挙で日本共産党が、17もの議席を獲得し、民主党や日本維新の会を押さえ「野党第一党」の座に立った。多くの有権者が“劇薬”を手にしたのは、それが国民に負担を強いる安倍・自民独裁政治に対する究極にして唯一の「NO」の意思表示だったからか。
地方議会がオール与党化する中で、共産党が行政チェック機能を果たしてきたことが支持を集めた理由だろう。その機能は、参院選でも共産党に1票を投じるという「劇薬」の効能になるかもしれない。
国会では自民・民主の2大政党制が事実上崩壊し、民主党は消費増税で自公と手を組み、維新やみんなの党という「第3極」もアベノミクスを支持し、共産党以外の多くの野党が「安倍自民の補完勢力」と化した。
「自民党1強」の状況は、15年前の1998年参院選の時に似ている。当時は自民党と並ぶ2大政党の一角だった新進党が解党し、共産党は小党乱立の中で東京、埼玉、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫の7選挙区で当選、比例代表でも820万票を取って合計15議席を獲得、非改選と合わせて23議席に躍進した。
今回の参院選で共産党が都議選並みの得票率(13.6%)を取れば、非改選と合わせて会派として認められる10議席に回復する。仮に、いま解散・総選挙となった場合、衆院でも25議席オーバーが視野に入る。
「共産党が多少、議席を増やしても政治は変わらない」と考えるのは大きな間違いだ。共産党の10議席は民主党や第3極など「政権と戦わない野党」の数十議席とは“破壊力”が違うからである。
共産党の「最大の武器」が、全国に張り巡らせた地方組織と機関紙『しんぶん赤旗』を中心とする調査能力の高さであり、国政での政権追及能力は数々の政界疑獄事件に発展してきた。
第1次安倍政権を揺るがした一連の事務所費問題(*注)は赤旗のスクープが発端で、労働問題では財界中枢企業の「偽装請負」を追及して社会問題化させた。
最近では原発再稼働に動いた九州電力の偽メール事件を報じるなど、政官財による利権政治の暗部にメスを入れてきた。
国会ではそうした問題を、「追及を受けたくない議員の2トップ」(自民党閣僚経験者)といわれる国対委員長の穀田惠二氏や佐々木憲昭氏らが追及する。メディアの政界疑獄でも“ネタ元”が共産党議員であることは珍しくない。
だが、現在衆院8議席、参院6議席(改選3議席)の共産党は、質問時間がままならず「牙」が封じられている。穀田氏がいう。
「参院では議員が10人いれば本会議で質問ができ、委員会の理事にもなれる。これがないのは痛い。いまは参院の議運委員会理事会へのオブザーバー参加も認められていない。非常に歯がゆい。参院選ではなんとしても議席を増やしたい」
自民党にとって共産党躍進が厄介なのは、他の野党への取り込み工作も難しくなることだ。衆院事務局出身で国対政治の裏側を見てきた平野貞夫・元参院議員が語る。
「自民党は国会をうまく運ぶために野党理事を接待してきたわけです。しかし、共産党の議席が増えた時代は、理事会にメンバーを送り込んで目を光らせるから、そうした料亭政治ができなくなった」
自民党にすれば、与野党談合で懐柔できる野党ならば数十人の議席でも恐くないが、それが通用しない共産党の躍進は脅威なのだ。裏を返せば、他の野党が自民党政権をチェックできない状態が続くならば、有権者は共産党という“暴力装置”に手を伸ばすという選択もあり得るということだ。
【*注】架空事務所の支出を不正に請求、または過剰な支出を事務所費として計上していた問題。赤旗は伊吹文明・文科相や松岡利勝・農水相らが事務所費を不正請求していたことを報じ、安倍内閣の支持率低下の一因となった。
※週刊ポスト2013年7月12日号