国内

「野党は対立軸を示せ」と主張するのは怠慢だと長谷川幸洋氏

 参議院選挙の日程が7月4日(木)公示、7月21日(日)投開票と決まった。日程が確定する前から、ニュースでは選挙のゆくえを占うための言葉が増えてきている。そのなかでよく使われる「対立軸」という言葉の使い方に違和感を覚えるというジャーナリストの長谷川幸洋氏が、その違和感の理由について指摘する。

 * * *
 参院選の前哨戦と位置付けられた東京都議会選挙が自民、公明両党の圧勝に終わった。各紙が社説で採り上げたが、私が違和感を覚えたのは「対立軸」という言葉の使い方だ。

 たとえば、日本経済新聞は「都議選の低投票率が映す対立軸の不在」と見出しを掲げ「民主党や第三極は明確な対立軸を提示できなかった」と指摘した(6月24日付)。

 朝日新聞も「野党は対立軸を鮮明に」と見出しにうたって「参院選に向け各野党は、説得力のある対立軸を示さねばならない」と唱えた。毎日新聞は「民主党の危機的な凋落」という見出しで「安倍内閣に向かう対立軸をきちんと示せるかどうか、参院選で野党側が負う責任は重大である」と主張している(いずれも同日付)。

 これらは、どれも野党に対する注文である。だが、野党に求めるべきなのは対立軸の提示なのか。違うだろう、与党とは違う野党らしい政策だ。その政策を見比べてみて、どこが「与党との対立軸になるか」を判断するのはメディアの仕事である。

 これは言葉の揚げ足取りではない。原理的な問題だ。各紙の書きっぷりは一読すると、もっともらしいが、実は本来、メディアが判断すべき問題を野党に丸投げしている、とも言える。

 具体的に言おう。たとえば、共産党はアベノミクスは格差を拡大するだけだからダメで、原発は反対、環太平洋連携協定(TPP)にも反対である。私から見ると、対立軸はこれ以上ないほど、はっきりしている。「対立軸を示せ」と書く新聞は、こういう共産党のような政策なら「軸が明快だから評価する」というのだろうか。

 政策というのは、マルかバツかで括れるような単純なものではない。「対立軸を示せ」という主張は分かりやすいが、実は政策の裏側にある考え方や国家観の違いを浮き彫りにする綿密な作業をさぼっている。

 読売新聞は「参院選では、具体的な対案を示し、自民党との政策論争を深めてもらいたい」と書いた(同日付)。これはすっきり読める。

 ただ、繰り返すが、政策論争を深めるのはメディアの責任である。国民は忙しいから各党、候補者の主張をみんなチェックできるわけではない。そこを読者に代わって、深く掘り下げるところに価値がある。

※週刊ポスト2013年7月12日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

高校時代の安福久美子容疑者(右・共同通信)
《「子育ての苦労を分からせたかった」と供述》「夫婦2人でいるところを見たことがない」隣人男性が証言した安福容疑者の“孤育て”「不思議な家族だった」
活動再開を発表した小島瑠璃子(時事通信フォト)
《輝く金髪姿で再始動》こじるりが亡き夫のサウナ会社を破産処理へ…“新ビジネス”に向ける意気込み「子供の人生だけは輝かしいものになってほしい」
NEWSポストセブン
中国でも人気があるキムタク親子
《木村拓哉とKokiの中国版SNSがピタリと停止》緊迫の日中関係のなか2人が“無風”でいられる理由…背景に「2025年ならではの事情」
NEWSポストセブン
トランプ米大統領によるベネズエラ攻撃はいよいよ危険水域に突入している(時事通信フォト、中央・右はEPA=時事)
《米vs中ロで戦争前夜の危険水域…》トランプ大統領が地上攻撃に言及した「ベネズエラ戦争」が“世界の火薬庫”に 日本では報じられないヤバすぎる「カリブ海の緊迫」
週刊ポスト
ケンダルはこのまま車に乗っているようだ(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
《“ぴったり具合”で校則違反が決まる》オーストラリアの高校が“行き過ぎたアスレジャー”禁止で波紋「嫌なら転校すべき」「こんな服を学校に着ていくなんて」支持する声も 
NEWSポストセブン
24才のお誕生日を迎えられた愛子さま(2025年11月7日、写真/宮内庁提供)
《12月1日に24才のお誕生日》愛子さま、新たな家族「美海(みみ)」のお写真公開 今年8月に保護猫を迎えられて、これで飼い猫は「セブン」との2匹に 
女性セブン
新大関の安青錦(写真/共同通信社)
《里帰りは叶わぬまま》新大関・安青錦、母国ウクライナへの複雑な思い 3才上の兄は今なお戦禍での生活、国際電話での優勝報告に、ドイツで暮らす両親は涙 
女性セブン
東京ディズニーシーにある「ホテルミラコスタ」で刃物を持って侵入した姜春雨容疑者(34)(HP/容疑者のSNSより)
《夢の国の”刃物男”の素顔》「日本語が苦手」「寡黙で大人しい人」ホテルミラコスタで中華包丁を取り出した姜春雨容疑者の目撃証言
NEWSポストセブン
石橋貴明の近影がXに投稿されていた(写真/AFLO)
《黒髪からグレイヘアに激変》がん闘病中のほっそり石橋貴明の近影公開、後輩プロ野球選手らと食事会で「近影解禁」の背景
NEWSポストセブン
秋の園遊会で招待者と歓談される秋篠宮妃紀子さま(時事通信フォト)
《陽の光の下で輝く紀子さまの“レッドヘア”》“アラ還でもふんわりヘア”から伝わる御髪への美意識「ガーリーアイテムで親しみやすさを演出」
NEWSポストセブン
ニューヨークのイベントでパンツレスファッションで現れたリサ(時事通信フォト)
《マネはお勧めできない》“パンツレス”ファッションがSNSで物議…スタイル抜群の海外セレブらが見せるスタイルに困惑「公序良俗を考えると難しいかと」
NEWSポストセブン
中国でライブをおこなった歌手・BENI(Instagramより)
《歌手・BENI(39)の中国公演が無事に開催されたワケ》浜崎あゆみ、大槻マキ…中国側の“日本のエンタメ弾圧”相次ぐなかでなぜ「地域によって違いがある」
NEWSポストセブン