国内の二輪車市場は1982年の328万5327台をピークに下降に転じ、2010年には38万242台と、実に8分の1以下にまで落ち込んでいた。だがこの市場が、わずかながら上昇に転じ始めている。
2011年の販売台数は対前年比6.7%増の40万5533台。この勢いは今年も続いている。その牽引役を担っているのが、川崎重工業のスポーツバイク『ニンジャ250』。海外で圧倒的人気を誇る『ニンジャ』、その250ccモデルの新型が2013年2月に国内発売され、爆発的に売れているのだ。
「自分で開発したバイクに娘を乗せて走りたいと思っても、品薄で手に入れることが難しい状況です」
開発のリーダーを担った田中邦博は、そう苦笑する。
開発のスタートは数年前。主に中小型エンジン開発を担っていた田中が、次期『ニンジャ』の開発責任者として抜擢された。
次期『ニンジャ』に田中が求めたものは“進化”だった。何を進化させるか? 先代『ニンジャ』ユーザーは、次期モデルに何を期待するのか? その答えを求めて、田中は国内はもちろん、欧米、ブラジル、そしてインドネシア等へ向かった。
田中の海外調査行脚は数次にわたり、調査した人数は優に100人超。これらの調査により、次期モデルの進化点を探っていった。
こうして登場した新型『ニンジャ』はライダーの風防のために設けられるカウルが一新され、ヘッドライトは一眼式から二眼式に変更。タイヤも太くし、海外で人気の大排気量『ニンジャ』を彷彿とさせる姿となった。
スタイルだけではない。見て感動、乗ってもっと感動してもらいたい──そのために革新的な装備が用意された。そのひとつが熱風対策だ。走行中は風を巻き込んでエンジンから発する熱を後方へ逃すようになっている。しかし停止中は熱がエンジン周囲にこもりやすい。そこで、停止中でも熱が逃げやすい冷却装置を採用した。
「先進国では“バイクは信号待ちでの停車中は多少熱気を感じても仕方がない”という常識がある。でも年中暑いインドネシアのユーザーには通用しない。これを改善できたら、日本でもきっと話題になる」
このアイデアはインドネシアでの調査によるユーザーの声が元になっている。
「作り手であるメーカーとユーザーでは、“当たり前”感に差がある。我々はその差を埋めた上で、期待を超える目標を立てないと、いい仕事はできない」
田中が手がけた『ニンジャ250』は、2012年に一足先にインドネシアで発売。噂が噂を呼び、日本国内でも今年2月の正式発売前に予約が殺到。1万台という年間販売台数の大台を突破する可能性も見えてきた。
「二輪車は日本が世界をリードする数少ない商品のひとつ。我々にとっては日本市場の再興こそが大きな夢。なんとかこの夢を叶えたい」
田中は今、この目標の達成に照準を合わせている。
■取材・構成/中沢雄二(文中敬称略)
※週刊ポスト2013年7月12日号