ファッションの流行は巡るもの。とはいえ、かつての流行に再び火を付けるためには、時代に合った新鮮な風味が、ほどよく加味されていなければならない。バブル期にブームとなり、その後、廃れていったセカンドバッグが、ここ数年、注目を浴びている。“クラッチバッグ”と名を変えて。男女ともに広がりつつあるクラッチバッグ、甦った背景に何があるのか。
「昨年くらいから、どのブランドもクラッチバッグを出すようになっています。ファッション誌でもよく紹介されていますから、今年に入って動きが加速していますね。秋冬にかけて、さらにブームが広がると見ています」
こう話すのは、大手百貨店の婦人鞄売場の女性店員。パーティーシーンなどで活躍するポーチサイズのものから、A4サイズが入る、大き目のものまで。売場には、用途に合わせて選択できるよう、さまざまなクラッチバッグが並ぶ。「最近は、鞄の“2つ持ち”が流行っていて、大き目のバッグとクラッチバッグ、両方を持つ方も増えています。一つは肩にかけて、一つは手に持つので、持ちすぎ感はありません」と、上記店員は語る。
クラッチバッグとは、肩紐や持ち手の付いていないハンドバッグのことで、セカンドバッグの別名。一般に、脇に抱えたり、手で握ったりして持つ。セカンドバッグと言えば、バブル期、男性が一見してそれとわかるブランドバッグを持つのが流行った。が、バブル崩壊とともに、セカンドバッグのイメージも崩壊。「デートで男性が持ってきたら、女性が引くバッグ」の筆頭に挙げられることさえあった。それが、昨今、女性たちの間で人気が高まるにつれて、男性の間でも復権の兆しが出てきている。
「最近は、女性のトレンドを、男性が上手く取り入れるようになってきています」と話すのは、ライフスタイルジャーナリストの吉野ユリ子氏だ。吉野氏に、クラッチバッグブームの背景について聞いた。
「女性にとってクラッチバッグは、エレガントさと、必要最低限のものだけを収めるという機能性や知性を兼ね備えたバッグです。手や脇に抱える姿も、女性を綺麗に見せますよね」。実際に“持ち方”への人気は高いようで、ある女性誌では、トートバッグでも、肩にかけずに折りたたんで持つ“クラッチ持ち”を推奨している。
では、男性に復権した理由は何か。
「最近、クールビズが定着し、スーツでなくてもよい企業が増えるなど、ビジネスマンのファッションは、カジュアル化しつつあります。数年前から、男性にもトートバッグが広がって、ビジネスシーンで使用する方も増えました。とはいえ、ファッションも鞄もカジュアルだと、崩しすぎ、と考える方もいらっしゃるんですね。
そこに登場したのがクラッチバッグです。必要最低限のものだけを、かっちりした鞄に収める。かつて流行ったセカンドバックと形も違って、すっきりと薄い。機能性が高く、新しい表情を出せるアイテムとして、若い方を中心に、人気を集めていると考えられます」(吉野氏)
さらに、スマホ・タブレット時代との相性の良さを吉野氏は指摘する。
「現在の生活スタイルにも合っているのだと思います。お財布と携帯、あとはタブレット、これらを収納するのに、クラッチバッグはちょうどいい。そもそも最近のクラッチバッグは、形がタブレットケースに似ていますよね。タバコを吸う方が減り、コンタクトの方が増えてメガネケースが必要なくなるなど、男性の荷物も変わりつつある。その変化を、クラッチバッグは捉えることができたと言えます」