高支持率をキープする安倍晋三政権の長期安定化を確信したのか、大マスコミのなりふり構わぬ政権擦り寄りが目に余る。それは参院選での自民勝利を経て、より加速するだろう。ジャーナリスト・田村建雄氏が指摘する。
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自民党総裁に返り咲いた直後の昨年10月、朝日新聞は他紙を出し抜いて安倍氏の単独インタビューに成功した。NHKの番組改編問題を巡り、長きに渡って犬猿の仲だった両者が手打ちに至ったのは、朝日側が安倍氏に詫びを入れたからと見られている。
その後も、朝日は安倍氏のヨイショ記事を次々と掲載した。顕著な例は1月24日付の同紙・脇阪紀行論説委員によるコラムだ。脇阪氏は、アルジェリア人質事件でお蔵入りとなったインドネシアでの安倍演説を抜粋し、「首相のメッセージは新鮮だった」「私は演説に落第点をつける気にはならない」と誉めちぎった。
さらに4月5日付の社説は「政権100日 難所はこれからだ」と題し、「最大の懸案だった経済再生に集中的に取り組んできた姿勢は評価できる」「高支持率を維持しているのも経済に明るい兆しが出てきた反映だろう」とアベノミクスを賞賛している。 朝日の方針転換について、全国紙幹部はこう語る。
「2006年の第1次安倍政権発足後、安倍氏と敵対関係にあった朝日は政権情報過疎に陥った。たとえば、事務所費問題で辞任した佐田玄一郎行革担当相の後任として渡辺喜美氏が起用された際も、他社に抜かれる特落ちで恥をかいた。
朝日が変節した背景には『同じ轍を踏みたくない』という思いとともに、消費税増税に向けた深謀遠慮もあった。2011年7月に日本新聞協会会長に就任した朝日の秋山耿太郎会長は、新聞の軽減税率適用を訴えるために請願環境を整えたかったのだろう」
安倍政権への擦り寄りは朝日だけではない。全国紙幹部が続ける。
「人気絶頂にある安倍叩きは読者離れに直結する。その上、増税で新聞が値上がりすれば部数減は必至だ。そうなれば政権から蚊帳の外に置かれ、ますます情報を得られなくなる。政権批判は慎重にならざるを得ない」
振り返れば、支持率歴代トップの小泉純一郎政権でも似たような現象が起きた。元・在京キー局報道部幹部がこう述懐する。
「小泉氏の初訪朝時、訪朝団が北からマツタケを贈られたことを某局がスクープ。すると、官邸サイドから『次の訪朝時は同行取材させない』と強い圧力がかけられた。記者クラブ全体で抗議し”取材外し”は回避されたが、不都合な報道への圧力は確実にある。
また、小泉政権批判をテーマに動いていた別の局は、『批判番組をやるなら国政選挙用の総理インタビューはさせない』と言われた。現実問題として高支持率の強い政権は叩けない」
かつて自民党・霞が関・大マスコミが一体となった「伏魔殿」の記者クラブ制度は、民主党政権下で一旦は弱体化したものの、再び三位一体で復活した。 鳩山政権では、小沢一郎氏や亀井静香氏の方針でフリーの記者にも会見がオープンにされた。大マスコミがそれに猛反発したことはよく知られている。そして自民復活により、旧来の閉鎖的な会見体制も巧妙に復活しつつあるのだ。
「各記者クラブは最近、フリーが入れないぶら下がりや記者懇談会をフル稼働させている。旧来の慣れ合い仲良し路線で、政権無批判とバーターの閉鎖的な情報独占が強化されつつある。自民の完全復活でその傾向はいよいよ強まるだろう」(霞が関中堅幹部)
御身大切で腰砕けになった大マスコミは、単なる政権の広報機関に過ぎない。
※SAPIO2013年7月号