あの軽快なメロディーを聞かないと、朝を迎えた感じがしない! という声も多いNHK連続テレビ小説『あまちゃん』。視聴率20%超のこのドラマのオープニングテーマから、劇中音楽を担当している音楽家・大友良英さんに「じぇじぇじぇ!」な制作裏話を聞いた。
「朝ドラの音楽やってるわりに、ぼくは朝が苦手で、“昼あま(お昼の放送の回)”を毎日、リアルタイムで見ています」
と、笑う音楽家の大友良英さん(53才)。『あまちゃん』の音楽同様、気さくでとっつきやすい笑顔が印象的だ。
これまで映画やドラマ音楽を数多く手がけてきた彼だが、“朝ドラ”は今回が初めて。
「もちろん脚本も読んでいるし、先に映像を見ることもできるんですが、このドラマは、毎日の放送を見逃したくない。脚本の宮藤官九郎さんも同じことを言ってましたが、先がわかっていても見たくなる。不思議な魅力が『あまちゃん』にはあるんです」(大友さん・以下同)
その魅力のひとつがキャストの個性だという。
「もちろん脚本もめちゃくちゃ面白いんですけど、ヒロイン・アキ役の能年玲奈さん(19才)の存在も大きいでしょうね。最初に彼女に会ったときは人見知りして、挙動不審な感じだったんだけど、妙に応援したくなるような魅力があるの。きっと孫がいたらこんな感じなんだろうなって(笑い)。実際の能年さんはアキちゃんそのもの。笑顔と猫背気味にひょこひょこ歩く感じがね。あの笑顔に後押しされて、曲ができることもありますね」
音楽を担当することが決まった後、ドラマのロケ地になっている岩手・久慈市を訪れたことも、曲作りにとって重要な経験になった。
「まだ撮影が始まる前に行ったんですが、小袖で、ちょうどドラマでも描かれていたみたいに、海女さんがウニを獲っていて、その場でもらって食べたんです。10個以上食べたんじゃないかな。その時に海やその土地の雰囲気を感じて“これだ”と思って。それでできたのが、ドレミファソラシドで始まるドラマのオープニング曲の最初のメロディー。でも、完成するまでには半年くらいかかりましたね」
視聴者は半年間、同じメロディーを聞くことになる。毎日聞いても飽きさせないためにはどうすればいいのか徹底的に考えた。
歌詞を入れなかったのにも理由がある。
「最初にドラマの設定を聞いたとき、これは、最終的に東日本大震災を扱うことになると思ったんです。それで、みんなの記憶に残っている、あの震災の場面になったときに歌詞があると、メッセージ性が強くなりすぎてしまうと思った。
それに東京ではイケてなかったアキちゃんが、北三陸に来て、ウニとともに笑顔になれたという体験が、最後までドラマの根底にはある。それがないと東京編でのつらい出来事を彼女は乗り越えられないと思ったので、オープニング曲ではアキちゃんが“ウニうめ~”って笑顔になる感じが出せればいいなと思ったんです。だから、あえて歌詞をつけませんでした」
※女性セブン2013年7月25日号