国立がん研究センターによると、年間約2700人が子宮頸がんによって亡くなっている(2011年)。1970年の約1400人に比べ、倍近くに増えているのだ。成城松村クリニック院長で産婦人科医の松村圭子さんが言う。
「子宮頸がんは幅広い年齢層でみられますが、怖いのは20~30代の若い女性に多いという点。ただし、原因やがんになる過程がほぼ100%解明されているので、ワクチンで予防でき、定期検診でがんになる前に早期発見することも可能なのです」
子宮頸がんの原因となるのは、ヒトパピローマウイルス(HPV)。HPV自体はどこにでもあるありふれたウイルスで、人の皮膚や粘膜に感染し、100種類以上のタイプが存在する。このうち頸がんの原因となるハイリスク型HPVは15種類ほどだ。
「ハイリスク型HPVのなかでも子宮頸がんを最も多く引き起こすのが16型と18型で、子宮頸がんを発症している20~30代女性の約7~8割から検出されています。基本的に、頸がんはハイリスク型のHPV感染者との性行為によって感染します」(松村さん)
感染者の男性と性行為し、子宮頸部の粘膜に傷がついた際、男性器に付着していたHPVに感染するのだ。しかし感染しても、ウイルスは体の免疫力によって約90%は排除されるという。
「ただし、約10%がそのまま“持続感染”し、そのうちの0.5%が、がんになるといわれています」(松村さん)
つまり、感染すれば必ずがんになるわけではないが、1回でもセックス経験があれば、誰でもがんになる可能性があるわけだ。
一方、男性の場合、がんの発症リスクは極めて低い。
「ハイリスク型HPVは、男性の陰茎がんや膀胱がんの原因のひとつで、最近の研究でゲイ男性の肛門がんの原因になっているとわかってきましたが、女性の子宮頸がんと違って稀で、数は非常に少ないのです」
と、獨協医科大学越谷病院泌尿器科医の小堀善友さんは解説する。はっきりとしたデータはないが、露出している男性器の場合、毎日の入浴などで洗うことで、HPVなどウイルスや雑菌がある程度落ちる。そのため、HPVに持続感染するリスクが低くなると考えられるという。
だが、だからといって、女性に“感染させる”リスクが低いわけではない。小堀さんが2007年に男性尿道炎で受診した患者の尿でHPVを調べると、次の結果が出たという。
「サンプル数が少ないのでエビデンス(確証)にはなりませんが、ハイリスク型HPVが多く検出されました。つまり、尿道がウイルスに感染しているということです。しかし、症状が出ないので男性は感染しているという自覚がない。それどころか、泌尿器科医でさえ、“男性もハイリスク型HPVに感染している”という事実を知らないことが多い。知らない間にパートナーの女性に男性が感染させている可能性は高いのです」(小堀さん)
多くの性感染症では、コンドームが予防に有効だとされる。ところがHPVに関しては万全とはいえない。HPVは尿道や陰茎だけでなく、陰毛など性器周辺にも潜んでいるため、コンドームでカバーできない部分から感染する可能性があるからだ。さらに、指などについたHPVが感染することもあるという。
そこで有効となるのが、子宮頸がん予防ワクチンだ。このワクチンは、体内に侵入してきたHPVに反撃する抗体を作る。副反応の問題はあるものの、7割近く子宮頸がんの発症を減少させることができると考えられている。
しかし、日本では定期接種の対象は女性だけで、感染の原因となる、もう一方の“当事者”であるはずの男性は話題にさえのぼらなかった。
「男性もワクチンを打つことでHPVの感染予防となり、女性への感染リスクを減らせます。事実、オーストラリアなどでは男性も子宮頸がん予防ワクチンを打ち、頸がん予防に取り組んでいます。日本ではワクチンの副作用ばかりがクローズアップされていますが、本質がまったく明らかにされていないと思います」(松村さん)
子宮頸がんワクチンの問題を、“女性だけのこと”としてとらえている限り、根本的な解決にはならないのだ。
※女性セブン2013年7月25日号