「捜査終結」(産経新聞6月28日付)報道に接する限り、4人の誤認逮捕者を出したPC遠隔操作事件は収束したかに見える。しかし改めて検証すると、検察の“暴走”とそれに加担するマスメディアの問題が、この事件に凝縮していることがわかる。
まず指摘しておかねばならないのは、捜査手法そのものの問題点だ。
片山祐輔被告はこれまで、計10事件で起訴されている。対して片山被告は一貫して無実を主張。同被告の弁護人を務める元裁判官の木谷明氏は、「この事件は“見込み起訴”されている」と批判する。
「公判前整理手続きでは、検察官が『証明予定事実』(公判で、証拠により証明しようとする事実のこと)を書面提示し、あらかじめ証拠などを明らかにした上で裁判の争点を詰める。
ところが5月22日に行なわれた第1回の整理手続きの書面には事件の事実関係以外、被告の関与を示す証拠も手口も、犯人性を示す主張も書かれていなかった。これでは論点整理できない。それについて検察は『捜査中』という驚くべき発言をした。捜査を尽くしてもいないのに起訴したのです」
同じく片山被告の弁護人である佐藤博史氏によれば、書面を見た裁判長も「異常な書面」と指摘したという。
強引な捜査はまだある。片山被告は可視化すれば取り調べに応じるとしたが、検察が拒否、取り調べは行なわれていなかった。そこで検察はある手段に出たという。
「起訴前の3月、業を煮やした検察は『弁解録取』をすると片山被告に持ちかけた。我々としても弁解録取なら応じてもいいと判断した。しかし、そこで検察官は3時間半にわたって実質的な取り調べを行なったのです。これは容疑者の権利を侵害する行為で、違法性がある」(木谷弁護士)
また、多くの事件をバラバラに逮捕・起訴して100日以上も勾留したことも異常である。その間に強引に自白を引き出そうとしたと見られても仕方ない。多くの冤罪事件で繰り返された、精神的に追い込んで「自白」をとる危険な手法である。
メディアはどう報じたか。象徴的なのは第1回公判前整理手続きを報じた翌23日の朝刊である。日経、読売、産経はほぼ手続き開始の事実を伝えるだけのベタ記事扱い。
弁護側が問題視した検察の“見込み起訴”について見出しを含めて報じたのは、毎日の「公判前整理 弁護側、公訴棄却求める『犯行場所特定ない』」と東京の「検察 被告関与言及せず 公判前手続き 裁判長『異常』と指摘」という報道くらいだった。
※SAPIO2013年8月号