選挙のたびに実感させられるのは、この国の政治を動かしているのは「老人」だということだ。昨年の総選挙の投票率は20代が38%、60代が75%。参院選を目前に敢えて問題提起したい。この国には「老人の一票の価値を奪う改革」が必要ではないか。井堀利宏・東京大学大学院教授が「世代別選挙区制」を提唱する。
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各世代の民意をフェアに政治に反映するための制度が「世代別選挙区制」だ。
まず有権者の年齢ごとに「青年区(20~30代)」「中年区(40~50代)」「老年区(60歳以上)」の3種類の選挙区を設定する。そして各年代が全有権者に占める割合に応じた定数を割り当てる。
最新の推計では20~30代の人口は約3139万人で有権者に占める割合は約30%。選挙区の総数を現行の小選挙区と同じ300とするならば、その30%にあたる「90議席」が青年区の定数となる(中年区は96議席、老年区は114議席)。北から順に20~30代の有権者数が均等になるように90選挙区を区切っていく。
当然、自治体の境目と選挙区の境目は対応しないが、住民票の台帳や郵便番号の区切りとコンピューターを活用すれば、自動的に設定することは簡単だ。
年齢は変わっていくので、例えば毎年1月1日の年齢別人口をもとに機械的に選挙区割りを行ない、その年の選挙ではそれを使うと決めればいい。ちなみにこの制度の下では現在違憲判決の出ている「一票の格差」問題も完全に解消される。
世代間の投票率の差にかかわらず、人口比に応じた各世代の代表が国会に送り出されることになるのだ。「どうせ投票に行っても何も変わらない」と考えていた若い世代にとっては選挙が本当の意味で自分たちの代表を選ぶ戦いになるのだから、投票率の上昇も期待できる。
立候補者の年齢については、特に制約を設けなくてよい。40歳以上の人間が青年区に出馬しても構わない。若い国会議員が少ない(昨年末時点で20~30代の議員は衆院で480人中71人、参院で242人中10人)という点も改善されるに越したことはないが、世代別選挙区制のもとでは自然と青年区の候補者は若くなるだろうし、若者のための政策を掲げる年長者がリーダーシップを発揮するのを阻害する必要もない。
かつての日本では国会議員が「地域の代表」であることが国益につながっていたかもしれないが、世代間格差の問題がこれだけ深刻になってきた今、国会議員は「各世代の代表」とすべきではないだろうか。
さらにハードルの高い改革になるが、真に日本の未来を考えるのであれば「0~19歳」にも選挙権を与える「子供区」を検討してもいい。細かい運用方法には議論の余地があるが、ある程度の年齢までは親や扶養者が代わりに一票を投じることになる。
周知の通り、日本は社会保障関係の予算のうち子育て支援の額が先進国の中でも極端に少ない。自民党は「子ども手当」を廃止し、その代わりに実施すると言っていた年少扶養控除の復活を見送った。
表向きは「待機児童ゼロを目指す」などと言いながら、現政権はますます子育て軽視に向かっている。子育て後進国を脱するために「親に2票」を与えるという考えは決して暴論とは言えない。
※SAPIO2013年8月号