長崎のご当地グルメで有名な「トルコライス」の名称が揺れている。豚肉を食べないイスラム世界でトンカツがご飯に載った「トルコ」ライスはあり得ないからだ。しかしトルコライスは国のトルコと本当に関係あるのだろうか? 食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。
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トルコライスの周辺が騒がしい。きっかけは、今年、全日本司厨士協会の関係者がトルコを親善訪問した際、トルコ料理人・シェフ連盟との間で「両国の食文化の発展に寄与する」とした国際料理有効親善宣言書に調印したときのこと。会食の席で、日本側が「トルコライス」を紹介したところ、イスラム圏のトルコにはない料理だと指摘を受けたことが発端だという。
しかしそもそも「トルコライス」は日本発祥の食べ物だ。ピラフにナポリタンスパゲティ、そしてドミグラスソースのかかったトンカツという3種が定番とされる。もっとも実際、長崎の洋食店では「米、パスタ、肉魚系タンパク質」という組み合わせでさえあれば、あとは店の裁量次第というメニューでもある。トンカツの代わりにハンバーグを投入して、「ハンバーグトルコライス」とするのは洋食店での定番メニュー。ステーキが代わりに入れば「ステーキトルコ」、エビフライや帆立のフライなら「シーフードトルコ」といった具合だ。ピラフやスパゲティの味つけもあまたある。
「トルコライス」の起源は諸説ある。昭和30年代まで長崎市内にあったとされるレストラン「トルコ」の名称を起源とする説は店やメニューの存在が不確かだが、まだ納得できる要素は多い。他の説は、フランス語で国旗の三色旗を意味する「トリコロール」から変化したという説。また「ピラフが中国を、パスタがヨーロッパを指す。トッピングのトンカツが両者の中央に位置するということから、『トルコ』の名を冠した」という説もある。
こうした料理の起源は、諸説あるのが当たり前となっている。とりわけ昭和30~40年代生まれの店やメニューなどの「元祖」「本家」問題は、証拠を伴って実証するのが難しい。だが、トルコライスにおける上記の発祥説は強引にすぎる。
現在もっとも有力なのは、トルコを発祥とする「ピラフ」をベースに組み立てたメニューだから「トルコライス」という説だ。現在も長崎で「トルコ風ライス」を供するレストランの先代が昭和30年代、神戸に勤務していた頃に考案し、その後長崎でレストランを開店させた。その「トルコ風ライス」が「トルコライス」の原型となったという説だ。実際、神戸にも「トルコライス」は存在することなどからも、この説の確度は高い。
日本の食は各国の食文化をどん欲に取り込んできた。われわれが日常で口にする食べ物や食材も海外から入ってきたものは「フランスパン(バゲット)」「支那そば(ラーメン)」「メリケン粉(小麦粉)」「朝鮮漬け(キムチ)」とアレンジを加えて呼ばれていた。「ナポリタン」のようにイタリアには存在しないものの、日本人に絶大に愛されているメニューもある。
トルコライス然り。地元で50年以上親しまれてきたオリジナルメニューならば、「本場」に承認を求めなくとも、胸を張って「日本独自の『トルコライス』」「トルコにはないけど『トルコライス』」と言い切ればいいのではないか。長崎とそこに住まう人たちは、間違いなく「トルコライス」を世界一愛しているのだから。