7月20日に公開された宮崎駿監督(72才)の新作『風立ちぬ』。本作をさらに魅力的な作品にしているのが、松任谷由実(59才)が歌う主題歌の『ひこうき雲』だ。
ユーミンの曲では珍しい“死”をテーマにした『ひこうき雲』。当時、まだ高校生だったユーミンはなぜこの曲を作ったのだろうか。そこにはひとりの“男友達の死”が深くかかわっていた。
東京・八王子の老舗呉服店の、2男2女の次女として誕生したユーミン。幼い頃からピアノや三味線を習い、大切に育てられた彼女は、地元の公立小学校に進む。同じクラスには、こんな男の子がいた。
「筋ジストロフィーという難治病を患っている子でした。いつも不自由そうに歩いていて…。彼は頭がよくて、かわいらしい顔をしていて、プラモデルを作ったり、絵を描いたりするのが得意な子でしたね。走ったり、サッカーやドッジボールをすることができない以外は、他の子たちと何も変わらないいい奴でした…」(当時の同級生)
当時の担任教師がこう振り返る。
「彼女は児童会長でもあり、クラスの中心人物だったからか、ずっと病気の彼を気にかけていました。それは彼を特別扱いするとかではなく、普通の友達と変わらずに接するという感じでしたね。例えば、彼がみんなと同じように泳ぎたいとかドッジボールをやりたがったときには、温かく迎え入れていました。彼女が中心となって、クラスみんなで受け止めていました」
難治病のクラスメートとの学校生活を送るなかで、ユーミンは友人らとともに、人に対する思いやりや病の残酷さを学ぶこととなった。小学校を卒業すると、私立の女子校へ進んだユーミン。
彼と離ればなれになってから4年後のことだった。彼は16才という若さで早すぎる死を迎えてしまう。葬式に行き、祭壇に飾られた彼の遺影を見て、ユーミンは衝撃を受けたという。ユーミンは著書『ルージュの伝言』(角川書店刊)で、このときの心境をこう綴っている。
<そのとき思ったの。ああ、結局昔のことっていうのはフローズンになっちゃうんだな、と。写真とかだけが大人の顔しててさ、高校生の顔しててさ。それでそのことがけっこうインパクトがあってつくった歌が『ひこうき雲』って歌>
ユーミンがこの曲で伝えたかったのは、「人間は死ぬ」。そして「死んだ人間は、あるときの姿のまま、人の記憶の中で生き続ける」ということなのだろう。きっと今でも、彼女の心の中には小学校時代の元気な彼の姿が生き続けているに違いない。ずっと忘れないよ。そんな祈りを込めて。
ユーミンは、『風立ちぬ』と『ひこうき雲』との関係について、こう語っている。
<シンクロニシティですね。この「風立ちぬ」という映画は、一見大人向けに感じるかもしれないですけれど、「ひこうき雲」の世界観と本当にびっくりするくらい重なっていて、映画そのものが中高生にすごく響くんじゃないかな>
※女性セブン2013年8月8日号