ビジネス

現預金と有価証券で約9000億円持つキャッシュリッチな任天堂

 30年前、全世界で6191万台を売り上げた「ファミリーコンピュータ」以来、任天堂は常にゲーム業界を牽引してきた。しかし今、業績に急ブレーキがかかっている。ライバルのソニー、マイクロソフトが新製品を発表する中、任天堂の未来は開けているのか、ジャーナリストの永井隆氏がリポートする。

 * * *
 任天堂の売上高6354億円(2013年3月期)のうち、日本国内は32.9%。実に7割近くが海外だ。内訳はアメリカ大陸が37.2%、ヨーロッパ26.7%、その他3.2%となっている。日・米・欧の三極体制であり、グローバル戦略は業績に直結する。

 エンターテイメント業界を多角的に分析するエンターブレイン社長の浜村弘一氏は、こう語る。

「直近では、3DSのソフトがアメリカで前年比40~50%の勢いで伸びています。アメリカのゲーム市場はかなり大きいので、ここをしっかりおさえることは利益につながります。ただしWiiUはソフトがまだ少なく苦戦中です」

 日米欧のハード市場シェアを比較すると、3大市場のなかではヨーロッパで苦戦しており、日米では圧勝しているソニーとマイクロソフトに反攻を許している。

 4月の決算説明会で岩田社長は「海外事業の勢いを再生し、(2014年3月期決算で)営業利益1000億円以上を目指すことが経営陣のコミットメント」と語った。そのためにはヨーロッパでさらにシェアを伸ばさなければならない。

 任天堂の強みは、現預金と有価証券だけで約9000億円を持つキャッシュリッチ企業であること。直近の売上高6354億円に対する手元流動性比率は約17か月にも及ぶ。これは大手企業の中では極めて高い水準だ。資金力を背景に、失敗を恐れずに挑戦ができるという面は、他企業に比べて確かに優位である。

 ライターでありゲーム関連のウェブサイトやイベントの企画制作に携わるプランナーの田下(たおり)広夢氏が語る。

「任天堂にとって目の前の営業赤字は、それ自体が大きな問題ではありません。一方、有能な人材の流出や、企業文化の変容が起きれば、その時が本当の危機なのです。短期的な黒字を求めて知財の切り売りに走ったり、守りに入ったりすれば、人材流出を招く可能性がある。それはやってはいけないと考えます」

 当事者たちは、将来を悲観してはいないようだ。ある社員が語る。

「会社が京都にあることが当社の企業風土を育んでいます。東京や大阪のような数字を追う競争文化がありません。勝ち組、負け組に分けることもしません。雑音に惑わされず、自分たちが面白いと思ったことを追求できる雰囲気がある」

※SAPIO2013年8月号

関連記事

トピックス

急逝した俳優の西田敏行さん
晩年は病魔と闘う日々だった西田敏行さん「どう命をたたむか毎日考えている」「死を考えることが幸せ」東日本大震災で紡ぎ出された独特の死生観 
女性セブン
シャンパンファイトでクレイトン・カーショー投手と肩を組んで満面の笑みの大谷翔平(写真/Getty Images)
大谷翔平、初のポストシーズンで“感情爆発”シーン カーショーと肩を組み満面の笑み、カメラに向かって大口を開けてニコニコ顔も 
女性セブン
経営者の”ズンちゃん”ことズオン・ティ・ミン・ホン容疑者(28)。20代にしてやり手の女社長だ
《ベトナムガールズバー摘発》28歳美人社長”ズンちゃん”はクルーズ楽しむほどの羽振り アオザイ着たキャストの“おねだり営業”で4億円以上売り上げ
NEWSポストセブン
どんな内容なのか?(元テレ東・池谷実悠アナのファンクラブサイトより)
元テレ東・池谷実悠アナ、月額2.7万円「超高額ファンクラブ」のスゴい特典内容 会員の名前を呼ぶ「メッセージ動画」も
週刊ポスト
旧5人のメンバー。左から石崎琴美、吉田知那美、吉田夕梨花、鈴木夕湖、藤沢五月(時事通信フォト、Loco Solare)
《消えたロコ・ソラーレ功労者の現在》“切実な事情”でチームを去ったメンバーがカーリング離れて「病院勤務の専属職員」に転身
NEWSポストセブン
新築で購入時は何の問題もなかった(イメージ)
「隣人ガチャ」にハズレたタワマン住人の嘆き 「中国人が10数人で暮らし始め…夜は大きなカラオケ音が…」転居を決めるまでの顛末
NEWSポストセブン
10月17日、東京・世田谷区の自宅で亡くなった西田敏行さん
誰からも愛された西田敏行さん 大御所然としたところはなく誰に対しても物腰柔らか「ご近所さんから講演を頼まれてもふたつ返事でOK」 
女性セブン
失踪報道が出たピーコ
《おすぎとピーコの老老介護その後》荒んでいった生活…ピーコさん「おすぎとは違う施設に」と望んだ理由
NEWSポストセブン
自分の代わりに市川團子(左)をテレビに出したい思いも強いという
テレビから消えた香川照之が注力する息子・市川團子の“マネジメント” 「テレビに出したい」父と「歌舞伎と学業に専念したい」息子のすれ違い
週刊ポスト
息子を遠くで見守った
「とんでもない運動神経」慶大野球部・清原正吾秘話 父・清原和博氏の逮捕、断絶を乗り越えた先に…入部挨拶を父は遠くで見守った
週刊ポスト
『THE MC3』(番組公式サイトより)
《テレ朝に近い戦略か》中居、東野、ヒロミがMCの『THE MC3』がスタート なぜ今50代のこの3人?前番組『ジョンソン』からひと周り年齢層アップ 
NEWSポストセブン
急逝した俳優の西田敏行さん
西田敏行さん急逝 外出中に一報を聞いた妻は「自宅にいれば…」と憔悴 来年1月期にはドラマ出演も決まっていた 
女性セブン