7月20日に公開され、大ヒットしている宮崎駿監督の映画『風立ちぬ』。その主題歌に起用されているのが松任谷由実の『ひこうき雲』だ。彼女自身も「ジブリっぽい」と語るこの曲は、同映画をさらに魅力的なものにしている。ユーミンとジブリいえば、1989年公開の『魔女の宅急便』での『ルージュの伝言』、『やさしさに包まれたなら』がある。このときも、映画の世界観と曲が見事にマッチした。どうして、ジブリ作品にユーミンの曲はこれほどまでに合うのだろうか? 音楽評論家の富澤一誠さんに聞いた。
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ひとつは映画の内容と曲のストーリー性がシンクロしているところにあると思います。『風立ちぬ』はゼロ戦の設計者である堀越二郎さんの半生がテーマとなっていますが、当時、国産の飛行機を作るのは途方もない夢だったと思うんですね。その内容がちょうど、空への憧れを歌った『ひこうき雲』のサビの部分と重なって聞こえます。
『ひこうき雲』は1973年、ユーミンのファーストアルバムに収録された曲です。ユーミンの同級生の死から着想して作られたものですが、戦争や大震災などを描いた『風立ちぬ』という物語とも、シンクロしています。『魔女の宅急便』では『ルージュの伝言』よりも『やさしさに包まれたなら』のほうが、『魔女の宅急便』のイメージが強いと私は思いますが、これも映画の内容と、曲の世界観や歌詞が重なって聞こえるからだと思います。
荒井由実時代の歌詞は松任谷由実時代と比べて、ファンタジーさに溢れていて、歌にストーリー性があって、ひとつの物語がちゃんとできているんです。それが、ジブリ作品のテーマにあったときに、曲と映画の世界観がハマるんだと思います。ちなみに『ルージュの伝言』、『やさしさに包まれたなら』も荒井由実時代の曲です。
ユーミンの特徴的な声が、ジブリ作品に合っているというのもあるでしょう。彼女の声は、どんなものにも溶け込む要素を持っている。一例を挙げると、中島みゆきの声は、すごくあくが強いですよね。そうすると“合う合わない”というのがどうしても出てきてしまう。中島みゆきが油絵とするなら、ユーミンはどちらかというとデッサンといえます。『ひこうき雲』に『風立ちぬ』という映像が入るのは、デッサンに色をつけることだと思いますので、どんなものにも合わせられる。そういう声の魅力もあると思いますね。
最後にタイアップについてお話しますと、映画やドラマなど作品は作品ででき上がっているものに、あとで曲のタイアップをつけると、どうしても取ってつけたような主題歌になってしまうことが多い。内容と合えばいいのですが、ただ強引にタイアップしただけのものはうまくいきません。『ひこうき雲』は40年も前の曲にも関わらず、それが最新映画と最高の組み合わせになっているというのは、今の時代の安易にタイアップをつけようとする流れに対するアンチテーゼになっていると思いますね。