参院選で大勝したものの選挙後の世論調査で、安倍内閣の支持率は発足以降最低となった。国民は、外交でも、TPP(環太平洋経済連携協定)でも社会保障でも、支持者に向かって大言壮語しておきながら、実際の中身はすべて骨抜きになっている実態に気付き始めたのか。
財界もTPPでは首相に見事に裏切られた。安倍政権は米国との事前協議で、日本車にかける輸入関税(最高25%)の撤廃を最長10年猶予するという大幅譲歩をした。TPP交渉の“参加料”として、自動車産業が「例外なき関税撤廃」で得る利益を米国にさっさと売り渡したわけである。
もっとひどいペテンに掛けられたのが保険業界だ。生保レディなどを通じて大きな集票力を持つといわれる同業界は伝統的に自民党との結びつきが強く、各社が国民政治協会(自民党の政治資金団体)にまとまった献金を行なってきたほか、有力な金融族議員に献金しパーティ券を購入してきた。
その保険分野は、米国とのTPP交渉では日本の市場が閉鎖的だと開放を要求されている。外資はすでにがん保険などの分野で大きなシェアを持っている。
しかし、実は、外資と日本の生保には共通の脅威がある。政府が100%出資する日本郵政グループの「かんぽ生命」だ。
圧倒的な店舗網を持つかんぽ生命が本格的にがん保険や生命保険などの販売に乗り出せば、市場を席巻されかねない。米国は「政府出資の企業にはフェアな競争はできない」と主張し、日本の保険業界もTPPの「公平な競争」ルールを利用してかんぽの事業拡大阻止に動いた。保険業界にすれば“毒(TPP)をもって毒(かんぽ)を制する”作戦だった。
その結果、麻生太郎・財務相はかんぽ生命の新商品販売を当面認可しない方針を表明。業界はホッと胸をなでおろしたはずだった。
だが、参院選が終わるや否や驚天動地の事態が起きる。マレーシアでのTPP参加会合が終了した翌日の7月26日、かんぽ生命は米国のアメリカンファミリー生命(アフラック)と業務提携し、郵便局の窓口で同社のがん保険を販売すると発表したのだ。全国2万局の郵便局が外資の保険代理店になるわけで、郵貯や簡保の巨額の国民資産が外資に食われてしまいかねない。日本の生保業界には最悪の事態である。
とくに将来をにらんでかんぽ生命と商品開発などで業務提携していた最大手・日本生命はショックを隠せない。
「当社はかんぽ生命と5年以上にわたって様々な面で協力してきた経緯もあり、今回の話については遺憾です」(広報室)
かんぽ生命(日本郵政)の100%株主は財務大臣。麻生大臣の許可なく提携はできないはずで、日本の保険業界は安倍政権に掌を返され、背後からバッサリ斬られたのである。
※週刊ポスト2013年8月16・23日号