最近、中国メディアでは母乳が闇売買されているとの報道が相次いでいる。おっぱいが出ない母親が新生児に与えるのかと思いきや、病人や過労に苦しむビジネスマンが栄養剤として使うというのだ。
『北京晩報』は、ある上場企業幹部の体験を詳報している。彼は仕事のストレスもあって全体疲労感を覚え、香港の友人から勧められたのが「母乳」だ。妻の許可を得て、1か月1万5000元(約24万円)で住み込みの乳母を雇ったという。
妻が同意することも驚愕だが、実際には1日3~5回、1回につき500~800ミリリットルの母乳を飲み続けたという。さすがに直接乳房からは飲まなかったというが、直を希望する雇用主もいるようだ。肝心の効き目だが、彼の場合はテキメンというほどではなかったという。
前出の1万5000元の給料を得られるのは若くてきれいな女性に限られるというが、そうでなくても「夫の稼ぎの数倍」になり、貧しい農村出身の女性にとっては魅力的な収入になる。
そして乳首を吸えば情が移るのも世の常。「乳母」を口実として女性を囲う輩も少なくないという。そういった背後もあり、乳母をあっせんする仲介業者が乱立し、大儲けしているという。
古来、中国では上流階級を中心に栄養剤として母乳を飲んでいたと伝えられており、10年ほど前には湖南省長沙市で「人乳宴」という母乳料理を提供する店が話題になった。同店では6人の乳母を「栄養師」として雇用、アワビの母乳煮など母乳づくしの料理を振舞っていた。
当然ながら、母乳は赤ん坊に与えるもの。「栄養師」や「乳母」の子は母乳を飲めず、粉ミルクに頼るという逆転現象が起きることについては中国国内でも異論が強い。
しかも、タンパク質含有量を偽装するために樹脂原料のメラミンが加えられた中国産粉ミルクの事件があってからは、誰も国産品を信用しない。香港では中国人が日本製の粉ミルクを買い占めて品不足になるという事態に陥っているほどだ。
そんななか、大人の手から母乳を取り戻そうという動きがある。中国南部の広州市に「母乳バンク」が設立されたというのだ。今年3月末から婦人小児医療センターが始めたもので、早産した低体重児などは腸機能が低く、母乳がもっとも良い栄養源であるという。また、牛乳アレルギーで粉ミルクが飲めない新生児にとっても、母乳は頼みの綱だという。
同センターでは献血車ならぬ「献乳車」まで用意し、およそ2か月で91人の母親がおっぱいを「献乳」したというが、まだ必要量の40分の1しか集まっていないそうだ。
なぜここまで母乳が珍重されるのか。『中国人の取扱説明書』(日本文芸社刊)の著書があるジャーナリストの中田秀太郎氏は、こんな見解を示す。
「話題になった人肉カプセルもそうですが、中国では健康のために、ヒトの胎盤や胎児そのものを食べるところもあり、母乳飲用はその一環ではないかと思います。今は禁止されたようですが、以前は大手ネットショッピングサイトでは母乳がいくつも出品されていました」
母乳の味は大人にとって、決しておいしいものではない。他国の食文化を否定するつもりはないが、母乳が本来の「飲み手」に渡らない状況は、どこかおかしいような気がしないだろうか。