お休みの帰省シーズン。だが夫の実家で、食べられない郷土料理を出されたときにどうすればいいのか。大人力コラムニストの石原壮一郎氏が伝授する。
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今年も「お盆」がやってきます。高速道路の渋滞や列車の混雑に立ち向かって、自分の実家や配偶者の実家に帰省する方も多いでしょう。自分の実家はさておき、配偶者の義実家では思いがけないアクシデントに見舞われがち。近辺に観光に出かけたり、配偶者の親戚を訪ねる流れになるケースもよくあります。
反応に困るのが、まったく口に合わない郷土料理が出てきた場面。もちろん向こうは「きっと喜んでくれるだろう」と思って、こっちがおいしそうに食べる姿をイメージしながら出してくれています。大人として、あからさまに嫌そうな顔はできません。気合いでおいしそうに平らげるのが大人とも言えますが、ものには限度があります。
ただ、向こうだって鬼ではありません。「これが食べられないなら、絶縁だ!」なんてことは言わないでしょう(もし、そういうことを本気で言い出すような義実家なら、別れるかどうかはさておき、露骨に疎遠になる決心がつきます)。
大切なのは、その土地の食文化に敬意を表して、食べようとする姿勢を見せること。ワクワクした素振りで「うわー、初めて食べます!」と言うぐらいのことはできるはず。口に入れた瞬間は、「ほう、独特の味ですね」と深く感嘆したり、「こういう味なんですね。なるほどー」と大げさに納得したりして、世界が広がったような顔をするのがマナーです。
二口目、三口目と箸を伸ばせればそれに越したことはありませんが、どうしても一口以上は無理なら、食べる代わりに質問することで口を動かしましょう。「いつごろからある料理なんですか?」「どういうときに食べるんですか?」といった漠然とした質問と、材料や作り方についての質問を織り交ぜれば何とかなります。相手も「あ、口に合わなかったんだな」と察するでしょうけど、料理に興味を示すことで少しは埋め合わせができます。
自分の実家に連れてきた配偶者が、そういう状況で困っていたら、愛情や頼りがいを示すチャンス。まずは「よかったねえ。これはなかなか食べられないよ」と喜ぶことで料理を出した親の顔を立て、「珍しいだろー」と配偶者に話を振って嬉しそうなフリをするチャンスを与え、その上で「食べないなら、俺が食べちゃうよ」と箸を伸ばしてあげましょう。配偶者は「ああ、この人と結婚してよかった」と思ってくれるはずです。
ついつい「こんなの出しても、ヨソの人には食べれないよー」と親を責めてしまいがちですが、これは親を不機嫌にさせるだけでなく、配偶者をいたたまれない気持ちにさせてしまう最悪の対応。「無理して食べなくていいからね」も、思いやりにあふれているようで、配偶者をさらに窮地に追い込んでしまう迷惑なセリフです。
どうせたまにのことですから、無難に「何となくなごやかな雰囲気」を作れれば、それで十分。中途半端に本音でぶつからないのが、面倒な関係になるのを避ける大人の智恵です。