2012年4月から中学校の保健体育科で、「柔道」を含む武道必修化が始まったことは記憶に新しい。しかし、柔道中に起こる事故(「柔道事故」という)についてはあまり知られていない。
『柔道事故』(河出書房新社)の著者、名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授の内田良さんは、学校におけるスポーツ事故、転落事故などの研究成果をもとに、ウェブサイト「学校リスク研究所」を運営。
学校管理下で発生したすべての死亡事例約7000件(1983~2011年)を確認・分類する過程で、柔道事故の多さに驚かされた。その数は29年間で118名。他の部活動における死亡率に比べ、突出して高かったのだ。原因分析を進めるにつれ、死亡事故の責任は全日本柔道連盟(以下・全柔連)と教育サイドが負うべきところが大きいと考えるようになった。
「柔道固有の投げ技等の動作によって頭部を損傷した場合、重大事故につながる可能性があります。また、脳震盪から回復しないうちに頭部に2回目の衝撃を受けると、軽度であっても致命傷となりうることが知られています。
ところが驚くべきことに、2010年4月まで全柔連の医科学委員会には、頭部外傷の専門家である脳神経外科医は一人もいませんでした。全柔連の認識がその程度なら、学校の柔道部の顧問や保健体育科の教師の認識も浅薄になって当然でしょう」(内田さん・以下「」内同)
今や柔道は世界各国に広まり競技者数も増え、フランスなどでは推定競技人口が日本の3倍になる。しかし、頭部外傷による死亡事故は確認されていない。
「フランスでは柔道指導者には国家資格が必要とされ、380時間の講習が義務化されています。肉体接触の多い柔道は危険を伴うスポーツとして認識されています。日本では柔道経験があるというだけで指導者になっています。フランスではスポーツ科学の知識が指導者に求められています。日本もそれに学ぶべきです」
※女性セブン2013年8月22・29日号