日本の年平均気温は年々、上昇しているという。気象庁の発表によれば、長期的には100年あたり約1.15度の割合で上昇し、特に1990年代以降は高温となる年が頻出している。東京の8月の平均最高気温を過去3年分を見てみると、2010年は33.5度、2011年は31.2度、2012年は33.1度となっている。このままだと、今年も8月の平均気温が真夏日の暑さになりそうだ。
暑い日が何日も続くと「日本は熱帯になったのか」と冗談交じりに言われるが、本当に熱帯の国、タイの首都バンコクの月間平均最高気温は一年を通して30度を超えている。もっとも暑くなる時期には40度近くになる日も珍しくない。湿度も平均で約70%と高い。
ところが、タイでは日本のように熱中症にかかる人は少ない。ただ、タイを訪れる日本人には具合が悪くなる人が多いそうだ。学生時代は3か月かけてアジア各国を旅行し、いまも長期休暇のたびに出かけている団体職員の30代男性も、熱帯の国では慣れたと思ったときが要注意だという。
「タイに着いてから3日目ぐらいが危ないんです。湿度が高くて日差しが日本より強いので、普通に過ごしているだけでフラフラしてきます。でも、地元の人たちは夏バテ知らずで元気なんですよね。甘いモノ好きのタイの人たちは、どこで塩分補給しているのかと思っていたんですけど、予想外のもので補っていました」
タイでは、街の至る所にフルーツ屋台があり、スイカやパイナップル、パパイヤやマンゴーにライチなどを注文するとカットして食べられる。日本では高級品でも、驚くほど安い。そのフルーツに、意外なものをかけて食べているのだと前出の男性は言う。
「フルーツをカットしたあと、調味料を振りかけるんです。その調味料は塩や砂糖、トウガラシなどをブレンドした調味料で、フルーツにかけるのがお約束になっているそうです。ちょっとずつ成分は違うのでしょうけれど、この塩を含んだ調味料をかける習慣は隣のカンボジアやミャンマー、マレーシアにもありますね。台湾では、調味料の入った小袋を渡されます。こうやって塩分補給をして暑さ対策をしているのかと感心させられました」
汗で失われた塩分を補給するために重要な塩分だが、適度な糖分と一緒に摂取すると塩分の吸収が良くなるとされている。つまり、タイなど蒸し暑い国でのフルーツに塩を加えて食べる習慣は、非常に理にかなった暑さ対策と言える。そんな熱中症や脱水症状に備える食習慣が、今年は日本でも注目されている。
原宿の裏通りにある、黒毛和牛のハンバーガーで知られる神宮前のレストラン「Zip Zap」では、さっそくフルーツと塩を合わせた限定メニューを登場させている。色とりどりの夏のフルーツをシトラスドレッシングで和えた「夏のフルーツサラダ ピンクソルト添え」は、ミネラル豊富なピンクソルトでフルーツの甘みが引き立つ。
表参道の一軒家カフェ「HOME」では、フルーツを塩とあわせたデザートが用意されている。「塩&レモンのジュレと季節のフルーツのパンナコッタ」は、フルーツとパンナコッタの間に塩レモンジュレが挟まれており、爽やかな甘さが口に広がる。「メニューを見ながら「塩とフルーツ?」と不安げな顔をされる方も多いですが、かなりの数のオーダーをいただきます(同店マネージャー)」と評判も上々のようだ。
さらに手軽に、コンビニやスーパーでもこのフルーツと塩の組み合わせを味わうことも出来る。果物を塩に漬けて下ごしらえし、シロップと氷をかけてつくるタイのデザート「ローイゲーオ」をヒントにつくられた飲料「キリン 世界のKitchenから ソルティライチ」(キリンビバレッジ)だ。ライチ果汁に、その甘みを引き出す沖縄海塩を加え、グレープフルーツ果汁などを含んだ純水で割った商品だ。
クーラーも冷蔵庫も製氷機もない時代から続く、蒸し暑さから体を守るために培ってきたタイでの習慣――フルーツと塩。夏に旬を迎えるスイカやライチ、パイナップルなどは体を冷やしてくれる効果も期待できるので、タイの知恵を積極的に取り入れ、今年の残暑を乗り切ろう。