人気ドラマ「半沢直樹」の裏には伊勢うどんあり! 大人力コラムニストで伊勢うどん大使に就任した石原壮一郎氏がその意外な結びつきを語る。
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ますます盛り上がりつつ後半戦に突入したTBS日曜劇場『半沢直樹』。主演の堺雅人の感情を抑えめにした名演技に、毎回うならされずにはいられません。彼のいっそうの大ブレイクに「やっぱりなあ。堺雅人は、そんじょそこらの俳優とは違うと思っていた」と深く納得しているのが、全国の伊勢うどんファンや伊勢うどん関係者です。
ご承知のとおり伊勢うどんとは、極端に太くてやわらかい麺に、たまりをベースにした真っ黒なタレをからめて食べるの超個性派のうどん。三重県伊勢市の伊勢神宮周辺で江戸時代から参拝客に広く親しまれてきました。
広く知られているとおり、堺雅人は大の伊勢うどん好きです。2009年7月10日に放送されたトーク番組『A-studio』(TBS)でも、伊勢うどんを手放しで絶賛。それは、司会の笑福亭鶴瓶さんが、堺さんの故郷の宮崎県を訪れ、行きつけのうどん屋さんにも行ったという話になったときでした。お店のうどんはちょっとやわらかめで、そこがよかったという鶴瓶さんの感想を受けて、堺さんは、力強く言い放ちます。
「こっち来て最近、コシのあるうどんが持てはやされているこの流れに、なんとかこう、待ったをかけたいなと」
「仕事で伊勢に行ったときに、伊勢うどんもやわらかくて、ちょっと“みたらし”っぽいタレがあって、あのときになんていうんですかね、同士を見つけた感じ」
「やわらかいうどんでもいいんだ、コシがなくてもいいじゃないか」
鶴瓶さんも大いに賛同し、「いまの、ものすごくコシがあるからね。ややもすると、切れへんのと違うかというぐらい」と、コシが強すぎるうどんに対する不満を述べます。
この瞬間、伊勢うどん側にとっても、堺雅人は頼もしい「同志」になりました。まさに、コシ至上主義の風潮に対する完全な「倍返し」、いや「十倍返し」に他なりません!
ただ、伊勢うどんは「コシがない」と言われがちですが、これ見よがしのガチガチなコシがないだけで、やわらかい表面の奥にふんわりとした確かな「コシ」を秘めています。 ドラマの中の「半沢直樹」も、表面はあくまで穏やかですが、自分の信念や決意はけっして失いません。しかも、あたりのやさしさや誠実さで、周囲の信頼できる人たちと深くからみ合っていきます。まるで、やわらかい伊勢うどんがタレと深くからみ合うように。
そう、いわば「半沢直樹」は、伊勢うどんの持つ大人力を体現した存在です。伊勢うどんを愛する堺雅人だからこそ、この役の魅力を存分に表現できているのは間違いありません。妻の菅野美穂も、せっせと伊勢うどんを作って夫を応援していることでしょう。堺雅人が自ら伊勢うどんを作って「ボクたちも、太く長く幸せになろうね」なんて言っている可能性もあります(すいません、途中から妄想です)。
いずれにせよ、万が一まだ伊勢うどんを食べたことがないという方は、そのやわらかいおいしさを知ることで、さらにどっぷりとドラマの『半沢直樹』を堪能できるはず。本場で体験するに越したことはありませんが、関東在住の方に耳寄りな情報が。8月24日と25日、代々木公園に全国のうどんが結集して「U-1グランプリ2013 うどん日本一決定選手権」が行なわれます。もちろん、伊勢うどんも参戦!
夏の終わりの週末、伊勢うどんをはじめとする全国のうどんの熱い戦いの渦に巻き込まれ、そのままの流れで日曜の夜にテレビで『半沢直樹』を見れば、日本に生まれた幸せや生きている喜びをしみじみ感じられること請け合いです。