ビジネス

マック1000円バーガーに吉野家は高級和牛丼で対抗せよとの声

びっくりドンキーのルーツ、盛岡の「ベル」

 日本の飲食チェーンは1970年の大阪万国博覧会を境として、大きな変化を迎えたという。『全国飲食チェーン 本店巡礼』(大和書房)をまとめたミュージシャンで外食チェーン店1号店ジャーナリストのBUBBLE-B氏によると、デフレの低価格競争を経た現在、いま日本の飲食チェーン店はまた転換期を迎えているという。歴史を追いつつ解説してもらった。

 * * *
――日本でこれほど多くの飲食チェーン店が広まったのは、いつ頃からなのでしょうか?

BUBBLE-B(以下:B-B):1970年大阪万国博覧会の影響が大きいですね。そのときアメリカ館にレストランが出店し、それを担当したのが今のロイヤルホストでした。このとき日本人は初めて低価格の洋食に触れたんです。それまでは、洋食はホテルへ行ってとても高いものを食べるしかなかった。でも、万博をきっかけに洋食がカジュアル化したんです。レストラン界におけるロイヤルホストの功績は大きいですね。

――大阪での万国博覧会は、飲食業界にとって歴史の転換点だったんですね。

B-B:これをきっかけに洋食、とくにアメリカの食べ物を食べたいと皆が言い出しました。1970年にすかいらーく、1971年にマクドナルド、ロイヤルホストにミスタードーナツ、1972年にモスバーガー、ロッテリアと立て続けにカタカナ名前のチェーン店が続々とオープンしています。アメリカへの憧れがよくあらわれています。

――マクドナルド1号店が銀座にオープンしたときの映像を見るとすごい人込みですね。

B-B:その後、大阪万博の熱狂が過ぎ去って外食産業はバブルがはじけたような状況になります。開業当初のデニーズのようにアメリカのレシピをそのまま提供しているところが多かった。最初は、これが憧れの味だと日本人は食べていましたが、やはりアメリカ人の味覚と日本人の味覚は違っていたということで、より日本人の味覚に合うようにメニューやレシピをアレンジしていくことになります。レストランは細分化して高級な店はより高級に。安いところはより安くなっていきます。

――外食という行動が、特別なことではなくなっていった時代ですね。

B-B:1970年代初めは、それまでの三世代で同居する家が少なくなり核家族へ主流が移った時代です。そして、核家族にとって外食は特別なハレの日の行事でした。ロイヤルホストやすかいらーくでハンバーグを食べるのが、思い出のイベントになった時代でした。

――今はファミレスといってもガストなどは中高生が友だちと来ている印象が強いですね。

B-B:今は子供だけでファミレスへ行くのが当たり前になってしまった。でも、単価1000円前後のレストランというのは、やっぱり家族で行くちょっと楽しいイベントの場所であってほしいなと僕は思うんです。

――ガストに中高生が多く集まるようになってしまったのは、低価格設定の影響もあると思います。でも、いったん下げた値段を戻すのは難しいとも言われますね。

B-B:よくそう言われますね。牛丼の値下げ戦争に象徴されるように10円安いだけでもそちらへお客さんが集まりました。くら寿司、かっぱ寿司、スシローといった100円の回転寿司にばかり人がいくようになった。日高屋と幸楽苑の290円と390円の中華そばの戦いもありました。調べていて気づいたのですが、ファストフード以外の低価格競争で火ぶたを切ったのはイタリアンのサイゼリヤかもしれないです。

――確かにサイゼリヤには安いイメージが強いですが、先陣を切っていたとは意外です。

B-B:サイゼリヤのミラノ風ドリアは1999年に504円から299円へ値下がりしているんです。そしてパスタの価格も下がり、サイゼリヤのイメージそのものが変わっていきます。ただ、個人的にはここ1年ぐらいで低価格競争は終わりに向かっているという印象がありますね。お客さんの指向がまた多様化してきている。

――多様化したのはどのような理由でしょうか?

B-B:いろんな要素があると思うんです。まずアベノミクスで所得があがっていく前触れを感じています。そして、食の安全を強く求めている。ちょっと高くてもよいから安全安心なよいものを欲しいと思っている。それを業界も察知しているんでしょう。

――飲食チェーン業界の変化は、どんなところに感じますか?

B-B:元気寿司は100円均一の回転すしで安さを最優先していたのに、江戸前寿司のように頼むとすぐに出てくる鮮度にこだわるサービスを強調した特急レーンを始めました。スシローは100円均一をやめて200円、300円と価格帯を変えた。それがちゃんとお客さんに受け入れられているんです。そしてロイヤルホストの躍進が目覚ましいです。価格が高いイメージが強くて、今まで本当に苦戦していたんですよ。

――財布のひもが、以前よりはゆるくなってきているのでしょうか。

B-B:ガストなどの低価格レストランの天下が続いていたんですけど、ちょっと高くてもいいものを食べたいという雰囲気になってきています。マクドナルドも追従していますよ。ハンバーガー単品で1000円という限定のクォーターパウンダージュエリーが発売されましたね。

――行列はニュースにもなりましたしSNSでも写真をたくさん見かけました。

B-B:黒トリュフソースのブラックダイヤモンドを食べましたよ。店で食べるって言ってるのに手提げの袋を渡されました。食べたあと、金色のリボンがついた手提げ袋をどうしたらいいんだろうと迷った挙句、結局、ゴミ箱に捨てて帰りました。これがアベノミクスかと思いましたね(笑)。マクドナルドって、本当に面白いですね。低価格になったり、いきなり高価格になったりとか。方針の変わり具合が好きですね。

――100円バーガーを販売していたときはデフレの象徴だったのに、変わり身が早いですね。

B-B:マクドナルドは転換期だと思います。高級路線がちゃんとウケることが実証されましたしね。なので、このタイミングで吉野家は牛丼の値段を下げましたが、むしろ高級路線も打ち出した方が良いのではないか?などと思ってます。

――値段が高くても味がきちんとしていればお客さんは来る時代になるんですね。

B-B:むしろ、これからは和牛の牛丼を600円や700円で出すべきです。BSE騒動で輸入牛肉が手に入らなかった時、吉野家の各店舗は休業しましたが築地店だけ和牛の牛丼を値段を上げて出していたんです。あれは最高に美味かったですね。高くてもいいですから、あれをもう一度、食べたい。1000円で黒毛和牛、1500円で松阪牛ですよ!(笑)

●BUBBLE-B(ばぶるびー)1976年、京都府生まれ、滋賀県大津市育ち。コンポーザー、プロデューサー、外食チェーン店1号店ジャーナリスト。18歳よりテクノ系の音楽活動を開始、「セットでドリンクバー」「Enjo-Gのシャッシャッシャッ」など謎の曲を数多くドロップ、全国のフロアを盛り上げる。2004年ごろより本店めぐりに目覚めブログ「本店の旅」を開設。8月22日(木)に阿佐ヶ谷Loft Aでゲストに吉野家・築地1号店店長らを迎えて出版記念トーク&サインイベントを開催。

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン