約1万4000坪の広大な敷地にそびえる、真新しいクリーム色の建物。かつて炭鉱で栄えた筑豊の中心都市・飯塚市。駅からほど近い遠賀川のほとりに「飯塚病院」の威容が現われる。
経営するのは麻生太郎・副総理兼財務相のファミリー企業「株式会社麻生」。地元では“麻生病院”と呼ばれる、全国でも数少ない株式会社立病院だ。
敷地には、冒頭で触れた今年2月に完成したばかりの北棟をはじめ、東、西、南の各病棟とハイケア棟などが要塞のように建ち並ぶ。病院の隣には麻生グループの「スーパーASO」や巨大な立体駐車場があり、あたかも“麻生村”の様相を呈している。
診療内容も充実している。麻生病院は44の診療科・部・センターに1116床を持ち、医師275人を含め看護師・医療技術者などスタッフ2300人以上を抱えるマンモス病院だ。
麻生氏の同僚議員は以前、会合でこんな話を聞かされたという。
「病院の駐車場に関係ない人が車を駐めて患者が使えないと困っていたから有料にしたら、“麻生が市民からカネを取るのか”と言われちゃったよ」
アベノミクスが進む中で、この麻生病院の存在は注目に値する。規制改革会議などでは、成長戦略の目玉として「株式会社の病院経営」の解禁を求める意見が出された。病院の経営者を医師に限る医療法の規制を緩和したほうが産業として発展できるという主張だ。それに対して日本医師会や厚生労働省は強硬に反対してきた経緯がある。
現在、例外として認められている株式会社経営の病院は全国に60あまりしかない。その多くは大手企業が1948年の医療法施行前に設立した病院で、主に社員の福利厚生の一環として運営されてきた。他はJR病院など国立病院が民営化したものだ。
その中でほぼ唯一、企業として戦略的に拡大してきたのが1918年設立の麻生病院なのである。
「麻生病院の強みは株式会社の資金調達力と医師の供給力。地方の病院はどこも医師の確保に困っているのに、麻生病院は医師を供給できて資金力もあるから経営難の医療法人をグループ傘下に入れて再建し、事業拡張することが可能。株式会社立病院の利点をうまく利用した経営ができます」(福岡の病院経営者)
株式会社麻生の有価証券報告書(連結)からそのことを読み取ることができる。同社の医療事業の売上高は2008年3月の約241億円から、2013年3月期には約314億円へと急成長を遂げた。総事業費45億円とされる新しい北棟は麻生グループの病院ビジネスの成功の象徴とも言える。
全国で企業の病院経営を認めれば、医療が成長産業になる可能性は十分にあるという見本ではないか。
ところが、そのメリットを知っているはずの麻生氏はなぜか企業の病院経営参入解禁について推進することはなく、安倍政権は成長戦略でその規制緩和を見送った。企業の力で病院事業を拡大するという特権は、「副総理の親族企業」など既得権を持つ企業が独占したままなのである。
■武冨薫(ジャーナリスト)と本誌取材班
※SAPIO2013年9月号