低価格路線で成長を続けてきた回転寿司。原材料費高騰をものともせず、高級ネタを惜しげもなく提供できるのは、果たして企業努力の賜物だけだろうか。ジャーナリスト・吾妻博勝氏がそのカラクリを明かす。
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見た目や味が似た安価な魚介類を「代用魚」として高級寿司ネタに偽装する行為は今でも多くの店で横行している。飲食店で直接提供される食品には食品衛生法やJAS法による原材料表示義務がない。水産庁では魚の名称のガイドラインを設けているが、こちらも法的強制力はない。だから店側は、あえて代用魚の正体を明かさない。
私は趣味で釣りをする。特にヒラメ釣りが大好きで、寿司屋の人気ネタである「エンガワ」がいかに貴重であるかを知っている。1匹から4貫分しか取れない希少部位で量も少ない。運良く口にできるのは高級寿司店の常連客ぐらいだ。ところが、街の格安回転寿司では「エンガワ」を1皿100~200円で提供し、客の大半はそれを「ヒラメのエンガワ」と思い込み注文している。
だが、これらは体長3mに達する深海魚の「オヒョウ」や「アブラガレイ」、「カラスガレイ」のエンガワで、1貫分の原価は30円にも満たない。数年前までは、それを「ヒラメのエンガワ」と偽る悪質な店も少なくなかった。明らかな詐欺商法だ。
これが問題になると、店側は「ヒラメ」の文字をそっと外し、単に「エンガワ」と表示するようになった。もちろん、今も「オヒョウのエンガワ」などと表示している良心的な店は少数派である。回転寿司のネタをすべて正確に表示すれば、メニューは聞き慣れない魚の名で埋め尽くされる。その正体が見たこともない奇怪な形の巨大魚や深海魚だと知ったら、客はさぞ驚くだろう。
たとえば、「スズキ」の代用魚に「ナイルパーチ」がある。大きなものでは体長2m近くになるアフリカ大陸産の淡水魚だ。「マダイ」に化けるのは、長いひげをたくわえたグロテスクな「アメリカナマズ」だ。
その姿を見れば食欲を削がれるのは間違いないが、この魚は「ヒラメ」や「アイナメ」などの高級魚にも変幻自在に姿を変える。よほどの通でなければ味で見破ることは難しいというから、まあ旨いことは旨いのだが、それが偽装の免罪符になるわけではない。
※SAPIO2013年9月号