長野県は1960年代に脳卒中の女性死亡率が全国1位となり、平均寿命は男性9位、女性は26位まで落ち込んだ。それは野沢菜など漬物を食べる機会が多く、塩分過多な食生活ゆえだった。
長野県ではいち早く自治体をあげて対策に取り組み、今年2月、厚生労働省が発表した都道府県別の平均寿命(2010年)では男性80.88才、女性87.18才を記録し、男女とも1位となった。特に女性が1975年から首位を守っていた沖縄県を抜き、日本の“長寿地図”を一気に塗り替えたことは、大きく報じられた。
実は長野県が研究者からも熱い視線を送られるのは、ただ長寿なだけではなく、健康上問題がなく、日常生活が自立している期間を示す健康寿命でも日本トップクラスを維持するからだ。
保健補導員とは、地域で健康活動を啓発したり、健康診断の受診を呼びかけるボランティアのこと(名称は市町村により異なる)。太平洋戦争末期、衛生状態の悪い旧高甫村(昭和30年に須坂市に編入)で孤軍奮闘する保健師を見かねた住民が、自主的に健康管理の活動に乗り出したのがきっかけという。
現在は長野県のほぼ全域で活動しており、1973年以降に限っても24万人以上、県内の女性の実に5人に1人が保健補導員を経験している。
この保健補導員こそが長野県の健康長寿のカギだと言うのは、その発祥の地、須坂市の三木正夫市長だ。
「わずか2年の任期ですが、市民は昔からの“文化”として誇りを持ち、『自分の健康は自分でつくる』という市の目標めざして励んでいます。私の母も補導員をやっていて、子供の頃から食事法などをよく聞かされて育ったので、自然と健康に対する意識は高まったと思います」
実際、須坂市の平均寿命は県平均と大差ないが、2013年1月の要介護認定率は全国17.5%、長野県17.2%に対して須坂市13.6%。県と全国平均を大きく下回り、長野県19市中最も低い。長寿1位の長野県内で、最も健康長寿の進んだ市なのだ。
地域の健康長寿を支える保健補導員の大きな“業務”は、先に触れた健康学習だ。毎月1回開かれる学習会は「運動実技」「たばこの害」「骨粗鬆症」などのカリキュラムがぎっしり詰まっている。
なかでも力を入れているのが、「減塩食」についての学習だ。塩分を多く摂ると高血圧になり、生活習慣病のリスクが高まる。生活習慣病は認知症の入り口になるため、健康長寿のためにも塩分を控えたバランスのよい食生活が求められる。さらに女性の場合、塩分摂取によって、寝たきりにつながる骨粗鬆症のリスクも高まってしまう――
だからこそ、日常生活での減塩が重要となる。先の学習会では、「○×クイズ」の後、管理栄養士が「減塩の大敵は毎日の食卓に欠かせないお醤油です」と続けた。
「意外なことに薄口醤油は濃口醤油より塩分が高く、大さじ1杯で薄口2.9g、濃口2.6gの塩分が含まれます。
確実に塩分を減らすには、100円ショップで売られている化粧水スプレーが効果的です。容器にお醤油を入れ、シュッと一噴きすると約0.04g、25回で約1gの量になる。卓上醤油はつい余分に使ってしまうのでスプレーがお勧めですよ(※スプレーの素材によっては適さないものもある)」
これには一同「へぇ~」とうなずくばかり。確かにこれなら、普段何気なく摂っている塩分を自分がどれだけ摂っているか、しっかりと計算することもできるので、摂りすぎないで済む。
※女性セブン2013年9月5日号