「経済成長と財政健全化への取り組みを通じ世界経済の成長に貢献していく」
参院選大詰めの7月中旬。G20で、麻生太郎副総理兼財務相は世界に向けてそう宣言した。しかし、その「成長に貢献」の対象が甚だ怪しい。
安倍晋三首相は「自民党は変わった」と繰り返しているが、安倍氏と二人三脚でアベノミクスを進める麻生氏周辺のカネの流れを追うと、この政権がやっていることは、まさに古い“ザ・自民党”の政治だと思えてならない。
アベノミクスは“麻生病院”(麻生氏のファミリー企業である株式会社立病院「飯塚病院」)の特権を温存しただけではなく、麻生グループ全体を潤している。
とりわけ10年間で200兆円をつぎこむ「国土強靱化計画」によって、麻生グループのもう一つの中核事業であるセメント事業が大いに恩恵を受けるのは間違いない。
「日本は天災が多く、それに対応するには公共事業が必要で、予算でどんと伸ばした。政府が公共事業で先頭を切れば、民間も投資に動き出す」
麻生氏は参院選の応援でアベノミクスの三本の矢の一つ、公共事業大盤振る舞いの意義をそう強調した。地元九州でも、セメントを大量に使うダム事業費が7割増、九州新幹線長崎ルートの建設費は2割増と手厚い予算がつけられた。
この間、麻生グループはまるで国土強靱化を見越していたように動いた。
同グループは「麻生」を中心に、セメント部門、介護、学校、不動産、ITなど79社を数える企業集団だ。2001年、業績低迷していたセメント部門を分社化。フランスの大手セメント会社ラファージュから出資を受けて「麻生ラファージュセメント」として傘下に入った。
しかし医療事業などで経営を立て直すと、自民党が国土強靱化法案の策定を進めていた昨年3月、セメント部門を外資から取り戻し、今年1月に社名を再び「麻生セメント」に変更している。
国土強靱化特需を見越した“先見の明”があったようだ。
その先頭に立ってきたのが麻生氏の実弟で株式会社麻生会長の泰氏である。この6月に九州財界のトップ・九州経済連合会会長に就任すると、新たな公共事業プロジェクトの旗振り役となっている。
参院選前の7月3日、泰氏は地元経営者らと自民党本部を訪ね、「国際リニアコライダー」(ILC)の福岡への誘致を陳情した。
これは地下に全長50kmのトンネルを掘り、大型電子加速器を建設して「ビッグバン」を再現しようというプロジェクト。総事業費は1兆6000億円とも言われる。セメントの量だけでも空前の規模であり、麻生グループにとってはなんとしても実現したい事業なのだろう。
誘致した国が費用の半分以上を負担しなければならないことから、実現の鍵を握るのは予算編成権を持つ財務大臣である実兄の太郎氏なのだ。
アベノミクスによる追い風はまだある。
安倍政権は「介護分野」を成長産業に位置づけた。この介護部門も麻生グループの事業の柱の一つなのだ。「麻生介護サービス」が福岡県内に約80か所の介護事業所を展開し、この7月にも新たなグループホームを開設した。
麻生グループの打つ手打つ手が、アベノミクスでカネが落ちる分野を先回りするように事業拡大をはかっていることがわかる。
■武冨薫(ジャーナリスト)と本誌取材班
※SAPIO2013年9月号