日本はお金持ちに厳しすぎる悪平等社会か、否か。富裕層に対する課税強化の動きが強まる中、エイベックス・グループ・ホールディングス社長の松浦勝人氏がフェイスブックで次のように発言(8月2日)し、波紋を広げている。
<阿部(原文ママ)内閣支持率向上の狙いのためか、たいした税増収にならないにも関わらず富裕層への所得増税は決まり地方税とあわせれば55%という税金が所得にかけられる。そして、相続税も半端じゃない。うかつに死んだら家族が路頭に迷うはめにもなりかねない。(中略)所得税が20%代の国はたくさんある。相続税のない国もある。こんなことをしていたら富裕層はどんどん日本から離れていくだろう>
ただし、すべての日本の富裕層が海外脱出を念頭に置いているわけではない。
年収2億円、昨年は7000万円の税金を支払ったインターネットビジネスのコンサルタント・久積篤史氏は「若手経営者たちが競って海外展開を考えるのは残念」と語った。ちなみに久積氏は六本木ヒルズに居住し、“ネオヒルズ族”とも称される若手経営者だ。
「若い起業家にとって挑戦しづらい環境が間違いなく今の日本にはあります。以前と比べて海外での事業展開は簡単。どこにいてもパソコンがあればビジネスはできる。一方、ただし私自身は日本を盛り上げたいなァと。これは東日本大震災の衝撃が転機になったと思いますが、やっぱり生まれ育った日本のために役にたちたいという気持ちが強い」
富裕層といえば“拝金主義”ばかり槍玉にあがるが、『資産フライト』の著書を持つジャーナリストの山田順氏は、「これまで海外に出た日本の富裕層の方を何人か取材したが、彼らに愛国心がないと感じたことは一度もない」と語る。
日本の税制に不満を抱き海外に移住した日本の富裕層たちも郷愁にかられ、Uターンする例も多い。定年後、海外移住を考えたが結局、日本で老後を過ごすことにした元大手商社役員の話。
「ちょっと病気や怪我なんかしちゃうと弱気になって里心がついちゃうんだよ。やっぱり単に税金が高い、安いだけで移住なんてできるもんじゃない。その国のことが好きで言葉だってできなきゃ」
多少税金が高いのも、“安全料”みたいに感じてしまう部分もあるんです、とこの元役員は頬を緩ませた。
さらに中国出身の経営コンサルタントの宋文洲氏は、
「日本の最高税率が高いというけれど、北欧諸国の税率はもっと高い。松浦さんの結論である『富裕層が日本から出て行く』は嘘。もちろん一部の人間は海外移住をしているのは事実でしょうけど、大多数は日本に留まっている。
それは皆、日本の方が安心して暮らせるし、日本人は幼いころから海外の生活、つまり異文化、異言語の人間と暮らすことに慣れていない。皆、口で国や政府に文句をいっているだけで行動に移す気なんてありませんよ」
と“富裕層の海外移住説”を一蹴したうえで続けた。
「松浦さんは不平等というけれど、日本の債務はGDPの200%あるんです。国の借金を解消しようとするときは、最も負担するのはお金持ちです。日本だけでなく世界中で、米国のリーマンショックの時もそうでした。それが社会的に公平なんです。
生存権が憲法で保障されている限り、貧乏人から取るわけにはいかない。新興国のいいところだけを引っ張ってきて比較してもアンフェアですよ」
※週刊ポスト2013年9月6日号