バイト先の冷凍庫に入るなどの“悪ふざけ”行為をネットで公開し、炎上するケースが相次いでいる。思想家の内田樹さんは、炎上をたきつける人たちの行為を「さらけ出すという芸に対するブーイング」だと見ている。
「リスクを冒して常識を逆なでするという“芸”にはそれなりの熟練と計算が要る。素人が簡単に真似できるものじゃない。出来の悪い芸に対して観客がブーイングしているのが炎上なんです。だから、炎上させる側にも加害者意識なんておそらくないです。“くだらない芸で受けると思うな”と見巧者のつもりで批評しているんです。個人情報をさらすというのも“演者”に生卵やトマトを投げつけるような気分でしていることではないんでしょうか」
悪ふざけをする人たちの行為こそが問題であることは間違いない。しかし、精神科医の香山リカさんは、悪ふざけ画像を投稿する人と炎上させる人の心理は同じだと分析する。
「悪ふざけをする人は、自分を認めてもらいたいという願望がすごく強い。炎上させる側も、日常生活では優位に立ててなくて、自分に自信がない。だから、みんなで炎上させて、自分は多数派なんだということを確認したいんです」(香山さん)
炎上した若者たちは、例外なくバイトをクビになり、社会的制裁を受けている。にもかかわらず、悪ふざけ投稿をする模倣犯が後を絶たないのはなぜなのか。教育学者の齋藤孝さんが言う。
「ツイッターやフェイスブックは大げさにいえば、世界中の人が見る可能性があります。でも自分たちにとっては、仲間内のツールでしかないから、その怖さがイメージできない。さらに、今の人は、影響を考えて行動する想像力が欠如しているんです。だから、気軽にアップする模倣犯が相次いでしまうのでしょう」
内田さんは、そうしたネット社会の怖さへの想像力が欠如している原因は、今の社会から生きていくためのルールが失われているからだと訴える。
「食べ物をおもちゃにしてはいけないというのは、人類が何万年もかけて作ってきたルールであり、作法です。かつては家庭で徹底的に叩き込まれたそういう教えが、今はもう伝わっていない。だから、たとえば、アイスクリームの冷凍庫に入って何が悪いのか、実はよくわかっていないと思います。アイスは袋に入っているんだから、おもちゃにしたくらいで商品の価値が減ずるわけじゃない。なんで怒られるのかわからない、というのが若者たちの本音じゃないでしょうか。でも、それは人類学的ルールをきちんと教えてこなかった大人たちの責任なんです」(内田さん)
彼らをただ「バカか?」と嘆き、溜飲を下げるのでは今後も同じような騒動が繰り返されるだけだろう。ただの「悪ふざけ」行動の後ろに透けて見える、親子の断絶や教育の弊害に思い至る理性と想像力こそが今、問われているのかもしれない。
※女性セブン2013年9月12日号