プラネタリウムが人気だ。2011年には、「世界最大のプラネタリウム」としてギネス世界登録に認定された名古屋市科学館の「Brother Earth」がリニューアルオープン、昨年は、観光名所となったスカイツリータウンにコニカミノルタのプラネタリウム「天空」がオープンするなど、改装・新規オープンが相次いでいる。90年代初頭以降、減少傾向にあったプラネタリウムの数は2010年から増加傾向に転じた。映像技術の進化と昨今の天文ブームによって、“星空”鑑賞へと誘われる人が増えているようだ。
560万個の恒星を再現し、“スーパープラネタリウム”と呼ばれる「MEGASTAR-II cosmos」。東京・江東区の日本科学未来館「ドームシアターガイア」はこのプラネタリウムで、天の川にきらめく星々の色の濃淡や、細かい暗黒星雲のディテールまでを再現する。内径35mという世界最大のドームを持つのが、ギネス認定された名古屋市科学館の「Brother Earth」だ。最新型の光学式とデジタル式の投影機を組み合わせることで星を自然に近い形で瞬かせ、宇宙旅行を疑似体験させる。東京・多摩六都科学館のプラネタリウム「CHIRON II」は、「世界でもっとも先進的なプラネタリウム」として、こちらもギネス認定されて話題を呼んだ。
いまプラネタリウムでは、急速な技術革新によって、肉眼では見ることのできない本物に近い星空が眼前に広がるようになった。この夏休み、人気のプラネタリウムには、鑑賞券を求める家族連れの行列が絶えなかったという。
注目を集めるプラネタリウム界からは、文字通り、スターも誕生している。先に挙げた「MEGASTAR」シリーズの開発者・大平貴之さんは、世界的な注目を集めるプラネタリウム・クリエイターだ。“違いを楽しむ人”としてネスカフェのCMにも登場するなど活動の場は幅広い。このプラネタリウム人気を牽引する一人だと言えるだろう。
プラネタリウム人気を支えるのは技術者ばかりではない。昭和5年生まれ、現在82歳の現役プラネタリウム解説員、河原郁夫さんはいまも月1回、川崎市多摩区の「かわさき宙と緑の科学館」で解説を行う。オート解説が増えつつあったプラネタリウムの解説だが、温もりと即興性のある生解説が見直されているようだ。最新技術の提供を含めた多彩なエンターテインメント性が、プラネタリウムへと人を呼び込んでいる。
こうしたプラネタリウム人気を支えているのは「子ども」と「女性」と語るのは、天文ジャーナリストで福島県「星の村天文台」台長を務める大野裕明さんだ。
「2011年の新学習指導要領は、小学校の理科教育の充実が柱となりました。これによって、星や宇宙に興味を持つ子どもが増えていると感じます。もちろん学校だけではなく、はやぶさの帰還や金環日食といった大きなイベントも、子どもたちによい刺激になっていると思いますね。子どもが興味を持つと、都会だと星が見えにくいですから、まずは家族でプラネタリウムに行ってみようということになるんです。
また最近、“宙(そら)ガール”と呼ばれる、星や宇宙を楽しむ女性が増えていますよね。最近はピンクの天体望遠鏡や双眼鏡が売れているようです。女性が集まるところには男性も集まりますから、天文界にとっては嬉しいことです」
また、プラネタリウム人気が、地方などでの星空鑑賞への入り口になっていると指摘する。
「プラネタリウムで見た星を実際に見たいとやってくる家族が、私の天文台でも増えています。都会のプラネタリウムで素晴らしい星を見て、次は本物を見ようと、地方の天文台へ出かけていく。天文台にとっても、地域にとっても、良い流れができつつあると実感しています」
暑さは続いているが早や9月。秋の星空を、まずはプラネタリウムで鑑賞してみてはいかがだろう。