「肉は腐りかけが旨い」と、肉通の間ではいわれていたが、現在人気急上昇中の“熟成肉”の考え方はこれに近い。近頃、寝かせることで肉の旨味を凝縮させた「熟成肉」を売りにした肉料理店が増えている。
通常、市場に出回っている新鮮な牛は、死後硬直の影響で肉質が硬い。硬直が解け始めるのが7~10日後。さらに時間が経つと牛肉自体が持つ酵素の働きにより、筋肉が柔らかくなりタンパク質が分解されてアミノ酸などの旨味成分に変わる。この変化が“熟成”と呼ばれる。
しかし、ただ寝かせておけばいいというわけでもない。フードジャーナリストの小口綾子氏がいう。
「熟成庫の中は肉が凍らないようほぼ0℃にキープし、水分が飛び過ぎないよう高湿度を保つ。この状態で8~10週間ほど熟成させるのですが、少しでも温度や湿度に変化があったり、肉に傷が付くとたちまち腐敗します。繊細な品質管理が必要なのです」
こうして熟成された肉は表面が乾燥し、良性の白いカビが付着することもある。これを除去すると、甘い熟成香を漂わせる肉肌が姿を現わすのだ。手間と時間がかけられているからこそ熟成肉は美味しいのである。
写真は、熟成肉ブームの火付け役といわれる専門店『中勢以』内店(東京・文京区)のサーロイン(手前)と内もも(奥)のグリル。脂から漂う熟成香を楽しめる霜降りか、噛むたびに凝縮された肉の旨味が広がる赤身か──熟成肉を存分に味わうには両方食べ比べてみるのがベストだ。
【写真のお店】
■中勢以 内店
【住所】東京都文京区小石川5-10-18
【営業時間】11時半~14時半(LO)、17時~21時(LO)
※ランチ営業は土日及び土日に続く祝日のみ
【定休日】月
撮影■岩本朗
※週刊ポスト2013年9月13日号