日本人が「本物のブラック会社」に搾り取られる構図として、かつてはいわゆる“タコ部屋”で半監禁状態になり過酷な肉体労働を強いられるケースがあった。
しかし最近では「現場は機械化が進んでいて、技術がある人間だけが必要だ。働かないヤツや、ひ弱な多重債務者なんか連れてきてもしょうがない」(建設業界関係者)というわけで、タコ部屋労働は激減している。
近年「本当のブラック」になりがちなのが、違法性がある(あるいはグレーゾーンの)ビジネスだ。実体のない海外投資を募る某社に勤務していた30代男性A氏が語る。
「もともと俺らはマルチ商法をやってました。消費者センターに苦情が集まり、警察に狙われる前にノウハウを持って他社に移籍する。最盛期には300万円くらいの月収があった」
実際にはやっていない海外投資名目でカネを集めるのだから出資法違反だが、A氏以外の多くの社員たちは「まともな投資会社」に働いていると思い込んでいた。
投資家を騙すには、立派なオフィスや事務員を用意し、利益が上がっていることを偽装しなくてはならない。そのため受付業務の社員や、宣伝材料となる広報誌・ホームページを作る社員たちは、犯罪の匂いを感じにくい。もし途中で気付いても、自身に累が及ばないよう知らないふりを決め込むことになる。
“社業”が順調なうちは好待遇だが、風向きが怪しくなり始めると大変なことになる。事情を知らない末端社員はいきなり給料が未払いになり、出来高制で働いていた現場営業マンなどはノルマが達成できず罰金を払わされることもある。
そしてA氏らがトンズラした後は、猛烈な顧客のクレームに追われ、自分たちも雲隠れするしかなくなる。まさに“本物のブラック”だ。
■文/鈴木智彦(フリーライター)
※SAPIO2013年9月号