がんの主な治療は手術、放射線、化学療法(抗がん剤)だが、画期的な治療法として世界で研究開発が進んでいるのがウイルス療法だ。
がん細胞は正常細胞に比べてウイルス感染に弱く、感染するとウイルスが増殖してがん細胞を破壊することが知られていた。しかし、ウイルスの作用をコントロールすることが難しかった。近年、遺伝子組み換え技術が発達し、がん細胞だけで増殖するウイルスを人工的に作ることが可能になった。
1991年にアメリカで毒性を失くした遺伝子組み換えウイルスをがん治療に応用する概念が提唱され、日本でも2009年から最新型ウイルスで臨床試験が行なわれている。
東京大学医科学研究所先端医療研究センター・先端がん治療分野(脳腫瘍外科)の藤堂具紀教授に話を聞いた。
「私が使用しているのは口唇に水疱を作る単純ヘルペスウイルスI型です。ウイルスから3つの遺伝子を取り除き、がん細胞だけでウイルスを盛んに増殖し、がんに対する免疫も引き起こす性質を持ったG47Δ(デルタ)というウイルスを作りました。これはアメリカで開発された第2世代を改良した第3世代で、大量に使用しても毒性が低く安全性と効果を向上させたものです」
将来はウイルスに様々な機能を持った遺伝子を組み込むことで、がんの特性に応じた治療ができるようになるかもしれない。例えば、免疫を刺激する遺伝子を組み込み、がん細胞に対するワクチン作用を強力に引き起こしたり、血管新生を阻止する遺伝子を組み込み、腫瘍血管が豊富ながんに使用したりするなど、活用が広がる可能性がある。
アメリカでは悪性黒色腫に対して、第2世代のヘルペスウイルス薬が来年にも薬として承認される見込みだ。日本も欧米に遅れることなく、がんのウイルス療法開発が進むことが期待される。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2013年9月13日号