9月9日、北朝鮮で建国記念日の式典が開催される。この国は体制が不安定になるほど、核実験や弾道ミサイル発射による威嚇外交に走る。今回の建国記念日は、地味だった昨年とはうってかわって大々的な軍事パレードが予定されるなど示威行動はエスカレートしている。ところが、そこに日本側から水をかける動きが出た。官邸の情報担当筋が語る。
「建国記念日の式典には、国交のない日本政府関係者は呼ばれないが、日本の共同通信社の福山正喜社長には招待状が送られた。ところが、この“敵情視察”のチャンスを福山社長は断わったという」
理由はどうあれ、共同通信の平壌支局開設は、「北の宣伝に利用されるだけ」との懸念が指摘されていただけに、福山社長が金正恩の誘いを門前払いしたことに対しては、“英断”という受け止め方もある。
だが、それでは済まないのが外務省や官邸だ。安倍政権にとって、平壌に支局を持つ共同通信は「数少ない北との情報窓口」であり、事実上の政府出先機関として情報収集に活用してきた経緯があるからだ。
「共同の社長が訪朝すれば宋日昊(ソン・イルホ)・日朝国交正常化交渉担当大使はもちろん、朝鮮労働党の要人との会談がセットされる。内容は官邸や外務省にフィードバックされ、貴重な情報源となっている。安倍総理も石川前社長の退任前に2度も会食して情報交換をした。それほど“共同ルート”は政権にとって重要だということです」(前出の官邸情報担当筋)
それだけに北朝鮮外交にかかわる官邸スタッフは、「共同は平壌支局を撤退するつもりで喧嘩を売ったのではないか。そうだとしたら貴重な窓口がひとつ失われるかもしれない」と気をもんでいる。安倍政権は対北強硬姿勢をとっているとはいえ、情報収集は国家として当然の責務。それを“他人の褌”で相撲を取ってきたツケが回ってきたことに慌てているのである。
※週刊ポスト2013年9月20・27日号