野球には、結論が出ないホコタテ(矛盾)論争がいくつもある。そのうちのひとつが、1塁ベースへのヘッドスライディングだ。世界の盗塁王、福本豊氏に1塁は走り抜けた方が速いのか、スライディングした方が速いのか、聞いてみた。
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1塁は走り抜けた方が速いに決まっとるでしょうが。100メートル走で、ウサイン・ボルトがヘッドスライディングでゴールするか? 走り抜けとるがな。仮にヘッスラの方が速ければ、1人ぐらいゴールで頭から突っ込んでもおかしくない。
タッチが不要で、ランナーも走り抜けられる一塁では、トップスピードの状態で走り抜けた方が速い。なんでわざわざグラウンドと摩擦を生む必要があるのか。
スライディングというのは二塁や三塁、ホームベースでの守備側のタッチをかいくぐる時にするもの。もちろんその時も頭から行ったらアカンよ。手をスパイクで踏まれたり、頸椎を痛めたり、ケガをする危険がある。これが一番怖いんです。
1回のケガで選手生命が終わることもある。それにプロのプレーは子供たちも見ており、影響力がある。少年野球の指導者には「アウト1回、ケガ一生」と教えとるが、監督がケガをした子供たちの面倒を一生見られるわけない。だからプロが率先して、危険なプレーをしたらアカン。
牽制での帰塁でも、左右の重心を均等にしてリードしておれば、足から余裕で戻れるはず。今の選手は仲良し野球をやっているけど、オレたちの時代は頭から帰塁すればグラブでバチーンと顔面にタッチされたもんや。痛い目に遭わんとわからんかもしれんが、大ケガするリスクと釣り合うようなプレーでないことは断言できるね。
※週刊ポスト2013年9月20・27日号