海外からの注目度も高い福島第一原発の「汚染水漏出」問題。IOC総会で安倍首相は「私が安全を保証します。状況は完全にコントロールされています」と大見得を切ったが、本当に大丈夫なのだろうか。京都大学原子炉実験所助教の小出裕章さんはこう話す。
「私は、すでに地下に漏れている放射性物質は、発表されているものより1ケタ多いと考えています。これがすべて流れ出れば、太平洋を中心に、世界中の海へと深刻な汚染が拡大する可能性もあると思います」
すでに昨年4月にカリフォルニア沖で捕獲されたクロマグロからセシウムが検出されたと報じられているが、今後の対策いかんによっては、海洋汚染は今とは比べものにならないほどひどくなる。水産物はもちろん、それを食べて生活する私たちにも大きな影響を与えることになる。
そうした最悪の事態を回避するために注目を集めているのが、汚染水から放射性物質を除去する機械ALPSだ。このALPSで、放射性物質をすべて取り除いて海に流す──それができれば汚染水問題は解決を見るが、実はこの装置では、取り去れない放射性物質がある。トリチウムだ。
日本原子力学会の事故調査委員会は2日、増え続ける汚染水について、放射性物質の除去装置で取り除けないトリチウムは薄めて海に流すべきだという見解をまとめた。トリチウムを自然界に存在する濃度に薄めて海に流すというのだが、果たしてトリチウムを海に放出して影響はないのだろうか。内部被曝に詳しい琉球大学名誉教授の矢ヶ崎克馬さんは、「とんでもない話です」と言う。なぜか──。
「トリチウムに害がないというのはあまりにも無責任です。トリチウムは、水素の放射性同位体のことで、放射性水となり、水そのものに混じります。水とともに体に入り、体内でベータ線を発して、体外に排出されるのです」
ベータ線とは、放射線の一種で、体内に取り込まれると、健康被害が生じる。
「トリチウムの放射線は、弱いといっても電離を行い、体内でつながっている組織をひとつひとつ切断します。人間の生命機能は、分子が全部つながっていることで健全さを発揮しています。ところが、あちこち切断されると、つながりがなくなり、生命機能が不充分な状態になります。その結果、免疫機能が低下するなどの体力低下につながり、発がん、心臓病などのリスクが増加するのは必然的です」(矢ヶ崎さん)
というから、なんとも恐ろしい存在なのだ。さらに矢ヶ崎さんが続ける。
「体内に自然に存在する放射性カリウムや、今増加しつつあるセシウム、ストロンチウムなどの放射線による分子切断と重なるので、トリチウム単独で考えるよりはるかに危険度が高いのです」
小出さんもこう指摘する。
「どこの国でもやっている、健康被害は出ていないという話もあるが、これまで海にこっそりと流してきた状況で、健康被害が出ても原因と結果がわからなかっただけ。日本政府が海に流すなどということは決して許されない」
このトリチウムを含んだ汚染水が海に注がれると、まず影響を受けるのは、海中の水生生物だ。
「それを口にする人が内部被曝するほか、海から蒸発したものが雲になり、やがて雨となって土壌を汚染していきます。そうなれば当然、動植物全般に影響が及んで農作物や畜産物への被害は避けられない。もちろんそれらを通しても被曝する可能性は出てきます」(小出さん)
※女性セブン2013年9月26日号