NTTドコモが米アップルの新型『iPhone5s/5c』の販売参入を決めたことで、いよいよソフトバンク、auとともに三つ巴の販売合戦が繰り広げられようとしている。
9月20日の発売に先立ち、13日には3社それぞれ端末価格を「実質0円」とする割り引くキャンペーンや通信プランなどを発表。早くも東京・銀座の「アップルストア」には、事前予約ができない機種(5s)を求めて泊まり込みを覚悟する人たちの姿も大きく報じられた。
そんな“iPhone狂騒曲”が今後のスマホ市場をさらに押し上げる可能性は高い。調査会社IDCジャパンの調べでは、携帯電話の国内出荷台数のうち、スマホの占める割合は77.4%(4~6月期)となり、前年同期比で26.8%も増加した。
だが、「そろそろスマホ疲れも起きている」と話すのは、モバイル評論家で青森公立大学経営経済学部准教授の木暮祐一氏だ。
「新型iPhoneに目新しいサプライズ機能がないように、スマホの進化は一段落した感じを受けます。ユーザーのほうも、いろんなアプリを詰め込んで遊んでいたのは持ち始めの2年くらいで、その後は日頃使うアプリも限られてきて、新しい機種に買い替えても最小限にしかダウンロードしない人は多いはずです」
もちろん、ヘビーユーザーにとっては、機種自体のメモリー容量やキャリアの違いによるデータ通信の繋がりやすさは買い替えの大きな理由になるだろう。だが、スマホの利用頻度が高い人ほど気にしているのが、従来型のフィーチャーフォン、いわゆる“ガラケー”の動向である。
「スマホの一番の問題は電池が持たないこと。いざというときに大事な仕事の通話ができなくなることを恐れて、スマホやタブレットはインターネット用の端末として使い、電話や簡単なメールはガラケーで済ますという2台持ちユーザーが増えています」(前出・木暮氏)
当サイトでも既報どおり、かつて携帯電話の開発で凌ぎを削ってきた国内メーカーは、NECやパナソニックが個人用のスマホから撤退する方向のため、現在ではソニー、富士通、シャープ、京セラの4社に集約された。NECはガラケー開発は続ける意向を示しているが、スマホが市場を席巻する現状では、通話重視のラインアップを揃えるのは難しい。
そんな中、auから9月14日に発売されるガラケーの新モデルがちょっとした話題となっている。京セラ製の『GRATINA(グラティーナ)』がそれだ。連続通話時間が約320分、連続待受時間に至っては約710時間という驚異的なスタミナを実現。さらに、画面全体が振動して音を伝えるスピーカーを採用しているため、騒がしい場所でも相手の声が聞き取りやすいという。
「京セラは2000年に米クアルコムから、2008年には三洋電機から携帯事業を買収し、通話音質や衝撃耐性に優れたガラケーの開発を進めてきた。また、スマホでも従来の携帯電話と同じように操作できる初心者機能を充実させて、シェアは少ないながら確実に支持層を広げている」(業界関係者)
こうしたガラケーの復活により、2台持ち、3台持ちが増えれば、回線数を競うキャリアにとっても悪い話ではないはずだが、メーカーにとってはハードルも高いという。
「ガラケーの端末はスマホに比べて部品点数も多いし、市場も国内メインで生産台数が限られてくるので、1台当たりの製造コストは莫大になります。ここまでスマホの市場が伸びている中で、販売台数が見込めるガラケーを作るのは容易ではありません。
でも、スマホがガラケーよりもさらに高性能でハイエンドな製品と位置づけられているのは疑問です。基板を囲んだ箱にタッチパネルを1枚入れるだけのスマホが6万円、7万円もしているほうがおかしい。建前上、金額を提示してそれを値引いておトクに見せる売り方は、そろそろ通用しなくなると思います」(木暮氏)
新型iPhoneではボディーの素材を剛性アルミからプラスチックに変えて製造コストを大幅に下げた廉価版(5c)が話題となっている。携帯電話事業が真の価値や使いやすさを追求する新たなステージに入ったとすれば、ゼロ円で端末を売りさばくチキンレースだけではキャリアもメーカーも生き残れないはずだ。