調理器具というと、定番商品ばかりで新製品は参入しづらいもの。消費者はそう感じていたはずが、フィリップスの『ノンフライヤー』は発売と同時に大きな話題を呼び、人気のあまり品薄状態が続いた。五感・身体と社会の関わりをテーマに、五感生活研究所代表として取材や多くの講演を精力的に行う作家の山下柚実氏が、『ノンフライヤー』の秘密に迫った。
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日本の調理家電市場は約5000億円規模。その6割を、3つの商品が占めていることをご存じだろうか。IHクッキングヒーター、炊飯器、電子レンジだ(野村総合研究所推計・2010年)。
メーカーはコツコツと技術革新を重ねている。けれど、消費者は「壊れたら買い換える」程度の意識でいる。そんな成熟しきった市場それは私の「思いこみ」だった。
と、気づかせてくれたヒット商品がフィリップスの『ノンフライヤー』だ。2月、「油を使わないで揚げ物ができる」というキャッチフレーズとともに製品が発表されると、話題は沸騰。4月の発売と同時に量販店の店頭から商品が消え、一時期は届くまで2か月待ちの状態に。日本に先立ちすでに世界100か国を超える地域で150万台以上も売れている商品だが、中でも日本での売れ行きは最速ペースとか。
新しい発見を与えてくれたノンフライヤー。いったい何が日本人の心にそこまで刺さったのか。秘密に迫った。
「おかげさまで販売目標は当初の4倍、20万台へと上方修正しました」と、同社コンシューマーライフスタイル事業部・増田智美さん(27)はノンフライヤーを前に口を開いた。ダルマを思わせる独特の丸みを帯びたフォルム。メタリックな黒色は最新機種が纏う「鋭さ」を感じるが、形のほうはむしろレトロな可愛い印象だ。
「中で最高200度の熱風を高速循環させて、食材の中にある油を使いながら揚げものを作ることが可能です。通常の揚げ物に比べ最大80%脂肪分を少なくできます」
ボディを開けると、食材を入れて調理するバスケットが出てきた。底にスターフィッシュ(ひとで)状の凸凹が。
「このくぼみによって360度まんべんなく上から下、下から上へと竜巻状の熱風を行きわたらせるわけです」
いわば、コンパクトで超効率的な熱風オーブンと捉えればいいらしい。
「電子レンジのように電磁波が出るわけではありません。パンも魚も、入れるだけで簡単に焼きあがります」
なるほど、焼き魚もできるのか。想像以上にシンプルで和洋折衷の、ありそうでなかった商品。熱を高速循環させる独自の「エアーサーキュレーション技術」を活用し、カラッとした仕上がりになる。
でも、ポテトフライはどうでしょう? 野菜に油分は含まれていないのでは……。
「たしかにお芋に油はありませんが、サクサクッとした野菜チップスのように仕上がります。衣があれば揚げものに、ポテトのような素材なら焼き料理になる、といったイメージですね」
外国では『エアフライヤー』という商品名だったとか。日本で『ノンフライヤー』に変わった理由は?
「日本では即席袋麺などでも『ノンフライ』という言葉が定着しています。聞くとすぐにイメージできて機能が伝わりやすい名前にしました」
味も見た目も揚げ物なのに「ノンフライ」。だからヘルシー。実にストレートなメッセージが、日本の消費者にズバッと突き刺さった。
※SAPIO2013年10月号