ついに視聴率30%超えも達成し、クライマックスへ向け最後の山場に突入したTBS日曜劇場『半沢直樹』(毎週日曜午後9時~)。
このドラマがなぜ、これだけの注目を浴びるに至ったのか、その理由を、元TBSプロデューサーでドラマ制作の“大重鎮”に聞いた。
1957年、まだ「ラジオ東京」という名称だったころのTBSに入社した大山勝美氏は、『岸辺のアルバム』『ふぞろいの林檎たち』『藏』『長崎ぶらぶら節』『天国までの百マイル』などの作品をプロデューサーや演出家として手掛け、TBSのドラマ黄金期を築いた立役者。
TBSのドラマ制作者たちは、大山氏に憧れて入社した者も多く、現場で大山氏に鍛えられ、ドラマ作りの伝統は引き継がれていった。『半沢直樹』の演出家・福澤克雄氏も、その流れを受け継ぐ一人だ。
そんな大山氏は、自身の代表作と『半沢直樹』を比べてこう評する。
「僕が手がけた『ふぞろいの林檎たち』は平凡な人たちの何でもない日常、“凡人の小事”をちょっと踏み込んで描くということをやった。『半沢』はそれとは正反対で、奇人変人です。特徴的な人の波瀾万丈をドラマにしている。どっちが良いか悪いかは問題ではなく、今はそういうものが求められている時代だということなんでしょう」(大山氏・以下「」内同)
また、ドラマの細部を見ていくと、大山氏の目にはかなり凝ったつくりに見えるという。
「あまり頻繁には使われない倒叙法をうまく使いこなしていると思います。結果を先に見せてから、そこに至る過程を描いて視聴者を引き付けるのは、難易度が高い」
倒叙法は主にミステリーもので使用される手法だが、『半沢直樹』でも第1話のタイトルコールよりも前に、5億の損失について半沢が支店長室で責められるシーンが描かれ、そこから時間をさかのぼって過程が明らかにされていった。
カメラワークについての大山氏の見解も、プロならではのものだ。
第1話の冒頭、入社面接を受ける半沢の顔のアップからゆっくりズームアウトしていく場面が実に1分半以上も続く。
「作り手目線で見ると、並々ならぬ決意が感じられるシーンです。演出家が半沢という人間にこだわって、誰もやったことがない表現をするぞ、という意志の表われだと感じました。
私がまだ現場にいたころの福澤君については、慶応のラグビー部出身で体格が良くて、いつも弁当を2つ食ってたな、というくらいの記憶しかない。けれど、彼がここまで力をつけたか、と思うと感慨深いですね」
そして大山氏の指摘は番組タイトルにも及ぶ。
「昔の英雄物語には人の名前をドンと付けた『寺内貫太郎一家』や『池中玄太80キロ』などヒット作も多かったが、最近はあまり見かけない。原作からタイトルを変え、主人公の名前で勝負したのはよかった」
NHKが『半沢』と同じ池井戸潤氏原作の『七つの会議』を同名でドラマ化したが、こちらは視聴率1桁台と振るっていない。
「NHKはリアルさにこだわり過ぎた。企業ものは男性が見るけれど、視聴率30%を取るには男だけじゃダメ。固い話を見やすくして女性視聴者を取り込んだのが『半沢』の勝因だろうね」
※週刊ポスト2013年9月20・27日号