野球では左打者が有利なことが多いと言われることから、右利きであってもバッターボックスに立つときだけは左利きにする選手もいる。果たして、右利きの選手は右打席で打った方がよいのか、左打席で打った方がよいのか。プロ通算306本塁打、巨人と阪神の両球団で4番を務めた唯一の選手、広澤克実氏に聞いてみた。
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ヒットを打つだけなら、一塁ベースに近い左打者の方が有利だと思います。イチローに代表されるように、左打者の多くは右投げ左打ち。右利きなのに左打者に矯正したもので、その多くは打率を上げるのが目的です。内野安打も多く、イチローが右打者なら安打数は激減していたでしょう。
ただし打者の大切な仕事は、打率を稼ぐだけでなく、チャンスに遠くに飛ばしてランナーを還すこと。内野ゴロではランナーがいない時には安打になっても、ランナーがいるとチャンスを潰してしまいかねない。
そのためには、キャッチャー側の腕の力がポイントとなる。車でいえば、ピッチャー側の腕はハンドル、キャッチャー側の腕はエンジン。間違いなく利き腕で押し出す方が打球は飛びます。だから右利きは右打席に立った方がいいのです。
「率を残す」という意味でも問題はない。当然ですがホームランを打っても打率は上がります。現にセ・リーグの打率上位5傑はすべて右の長距離打者です(9月4日時点)。
歴代三冠王もほとんどが利き腕側の打席に立っています。左打者では王貞治さん、バース、松中信彦ですが、王さんと松中は左投げ左打ち。右利きを左打者に矯正したものではありません。やはり利き腕で押し出す打法が自然なんですよ。
※週刊ポスト2013年9月20・27日号