安倍晋三首相(58才)は五輪招致の最終プレゼンテーションで、汚染水について、「私が安全を保証します。状況は完全にコントロールされています」と世界に宣言した。しかし、福島第一原発の高濃度汚染水漏出問題は日々、その深刻度を増し、16日には上陸した台風18号による大雨を受けて、放射性物質のセシウムの濃度を測らずに汚染水を海に放出したことが明らかになった。世界からも批判の目が向けられつつある。
私たちは今、何を信じればいいのか──「原発事故はいつか必ず起きる」と警鐘を鳴らしてきた原子力研究の第一人者・小出裕章さん(64才)の元を訪ねた。
小出さんの勤務先である京都大学原子炉実験所は和歌山県との県境に近い、大阪府南部の熊取町にある。敷地内に入るには、身分証明書の提示など厳重なチェックを受けねばならない。そこには研究用原子炉があるからだ。いかに厳重な管理が放射性物質には必要なのかを思い知らされる。
1974年からここで研究を続ける小出さんの肩書は、「助手」を意味する「助教」だ。40年もの間、助手の地位に甘んじるのは「誰かに命令されることもなければ、命じることもない研究と発言の自由を獲得するため」と小出さんは言う。
孤高の研究者である小出さんは、「汚染水はコントロールされている」という首相発言をどう聞いたのだろう。改めて話を聞いた。
「率直に言えば、『一国の首相がこんな嘘をついていいのか』と呆れ果て、本当に情けなく思いました。原発事故が福島の人から故郷を奪っている状況で、五輪どころではないはず。福島の人の生活を成り立たせるため、事故を収束させることが何よりも先だと思います」(小出さん、以下「」内同じ)
福島第一原発では原発事故で熔けた核燃料を冷却するため、大量の水を原子炉に注入している。核燃料と接触した水は汚染水となり、建屋内コンクリートのヒビなどから漏出する。毎日増え続ける汚染水を貯蔵するタンクからも汚染水が漏出し、地下水と合流して海に流れ込んでいる。
これらの汚染水を完全に制御していると胸を張る安倍首相だが、13日に民主党の汚染水問題対策本部が開いた会議に出席した東京電力の幹部は、「コントロールできていない」と発言。その後、東電がこの発言を撤回したとはいえ、首相発言が早くも揺らぐ状況に、小出さんは「そもそも、なぜ今頃になって騒ぐのかが不思議」と首を傾げる。
「2011年3月末には原子炉建屋地下、タービン建屋地下、それを結ぶ坑道(トレンチ)に汚染水が10万トン溜まっていました。同年4月に汚染水がピット(立て杭)経由で海洋に流れているとわかり大騒ぎになりましたが、東電がピット内のヒビ割れを塞いだことで、“この問題は終わり”と、報じられなくなった。
しかし、あれだけの大地震です。建屋内やトレンチ、ピットのあちこちで基盤が壊れるのは当然で、たまたま見つかった1か所を塞いでも解決になりません。要するに、事故当初から今に至るまで、汚染水はずっと海に“ダダ漏れ”していたのは明らかだったんです。それを『コントロールされている』と言った安倍さんは本当に恥知らずです」
※女性セブン2013年10月3日号