ブームの後には反動が訪れるのが常だが、ちょっと珍しい展開になっているのが「柔軟剤問題」である。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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NHKのニュースや新聞が大きくとりあげ、社会問題化した「香害」。今大人気の、衣類に香りが残る洗濯用柔軟剤についての相談が国民生活センターで増えているとか。
人工的な香りが原因で気持ちが悪くなったり、頭痛や吐き気がする、というケース、「ああ、あるある」とうなずいた人も多いのでは。柔軟剤の使用方法については、4人に1人が規定の量の2倍を超えている、という業界団体の調査結果もあるようです。
国民生活センターは、香り付きの柔軟剤を使いすぎないよう消費者へ呼びかけました。同時に、業界団体に対して、過度な使用を控えるよう商品に表示したり啓発活動を行ったりするように要望したそうです。
職場で他の人の柔軟剤の香りに悩まされる。レストランで料理の風味やワインの香りをじっくり楽しみたいのに、衣服の香りが気になってしまう。近所に干してある洗濯ものから漂う強すぎる香りが苦痛、という訴えまであると聞きました。心理的な苦痛だけでなく、体調が悪くなったりする化学物質過敏症の訴えも切実だと新聞は伝えています。
「強い芳香臭をかいだ。意識がなくなってその場にうずくまった。顔面が蒼白になり、言語機能の極端な低下、筋肉硬直などの症状が出た」(東京新聞2013年9月2日)。
他人の体調にまで影響するとなると「たかが香り」ではすみません。ご存じのように、健康増進法はタバコの煙についてこう定めています。
「人がたくさん集まるところでは、分煙する努力をしなければならない」
そのうち「人がたくさん集まるところでは、『分香』する努力をしなければならない」となる日が来るのかも。
今回の香害問題。その根底に「匂いワガママ」の増殖がありはしないでしょうか? 「匂いワガママ」とは、柔軟剤や香水は「良い」匂いとし、その他はすべて「クサイ」と決めつけること。自分が好きな匂いはOK、「芳香」はたっぷりと十分すぎるほど身につける。一方で、匂いのするものは「くさい」「悪臭」と嫌悪し、消臭に走る。
そうした「匂いワガママ」の増殖現象。一粒で二度おいしい思いをしているのは、もしかしたらメーカー側かもしれません。なぜなら、香が残る柔軟剤と消臭剤、匂いワガママな人は両方を買ってくれるのですから。
ふと、知り合いのお父さんの言葉を思い出しました。
「小学生の息子に、動物園に行こうと誘ったら、クサイからいやだと断られた。その言葉がとてもショックでした」
生命活動と匂いは切っても切り離せないはず。暮らしの中にあるさまざまな匂いを、一律に「クサイ」と毛嫌いする子どもたちが増えていくとしたらどこかおかしい、とお父さんは嘆いていました。
他人のことを顧みずプンプンと人工的な「芳香」を発散する今回の問題と、動物園はクサイ、と嫌う子どもたち。その2つはどこか根底でつながってはいないでしょうか? すべてをコントロールしたい、コントロールできる、という操作幻想。いよいよ、匂いと暮らしの関係について、原点から問い直してみる時期が来たのかもしれません。