日本人なら誰もが好きな「唐揚げ」。ルーツは江戸時代に中国から伝わった普茶料理と言われているが、それは豆腐を油で揚げて煮込んだもの。鶏肉を醤油ダレに漬け込んで揚げるお馴染みの唐揚げは、まさに日本の食文化として独自に発展してきた。
近年はB級グルメブームもあり、さまざまなフレーバーの“ご当地唐揚げ”が登場。2009年ごろから唐揚げの聖地とされる大分県中津市の人気店が東京に進出するなど、「唐揚げ専門店」が急増した。今や東京都内で128店舗、全国では750店舗あるという(2013年4月の推定)。
そんな中、大手チェーンのケンタッキー・フライド・チキン(KFC)が、持ち帰りの唐揚げ専門店『鶏から亭』(目黒区・ダイエー碑文谷店内)を10月1日にオープンさせる。主要メニューは、秘伝スパイスや醤油など4種類で、いずれも骨なしで100g270円と量り売りする予定だ。
ファストフード業界で確固たる地位を築いたケンタッキーが、わざわざ新業態を立ち上げる狙いはどこにあるのか。
「和風の味付けや骨がないタイプで親しみやすい唐揚げのニーズが高まっている中、お惣菜の需要を広げるために新業態を立ち上げることにしました。持ち帰り専用だと店舗スペースも要らないので、既存店だけではカバーしきれない商圏にもまんべんなく出店できますし、主婦やファミリーなど幅広い年齢層にも来ていただけます」(日本KFC広報室)
確かにケンタッキーのイートイン店舗は、客の回転率も含めて高効率とはいえなかった。日本フードアナリスト協会所属のフードアナリスト、重盛高雄氏が語る。
「例えば、一人暮らしの女性客がレジで『チキンを1ピースだけください』とは言いづらく、セットのポテトやビスケットなどを注文して食べきれなかったなんて話はよく聞きます。そもそも店内でチキンをかぶりつくのに抵抗があった人も多いでしょうし。
その点、ケンタッキーの秘伝の味はそのままに、食べやすいチキンがグラム売りで買えるとなると、これまで特別な日にしか食べなかった人たちの来店頻度も高まるでしょう。1号店に碑文谷を選んだのは、周囲には住宅地がたくさんあり、古くから住む住民たちに再度ケンタッキーの味を再評価してもらうには最適の立地だと思います」
ダイエーの碑文谷店は同社の中でも旗艦店に挙げられるほど売り上げがよく、ケンタッキーも当然ながらその集客力には期待している。
「碑文谷に住んでいる方たちは商品へのこだわりが強く、お惣菜でも高級志向なところがあると聞いています。ダイエーさんの力を借りながら、ケンタッキーの原点であるチキンをより多くの人たちに味わってほしいです」(前出・KFC広報担当者)
ケンタッキーに限らず、大手ファストフードチェーンは軒並み、既存店の売り上げを対前年比で落としている。だが、決して唐揚げのニーズそのものがなくなっているわけではなく、むしろ時代に左右されない一品といっていい。
国民食である唐揚げの地位向上を目指し、数々のイベントなども仕掛ける日本唐揚協会の専務理事、八木宏一郎氏の言葉は力強い。
「唐揚げの魅力は、外食・中食・内食に関係なく、おやつ、おかず、おつまみと何にでもなる。ここまで幅広くカバーしている食べ物はほかにありません。いま、協会では“アゲノミクス宣言!”をキャッチフレースに、『唐揚げ×飲み』で景気をよくしようと呼び掛けています。鶏肉は安価でヘルシーですし、その人気はますます高まっていくと思います」
さて、ケンタッキーもアゲノミクスの波に乗ることができるか。