認知症患者を取り巻く家族の苦労やしんどさは、これまでも多く取り上げられてきた。だが、肝心の患者たちがそのことをどう捉えているかは、窺い知ることができなかった。このたびNPO法人「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」のウェブサイトで公開された「認知症の語りデータベース」は、そのことに初めてインタビューで向き合っている。近親者に患者がいたとしても、十分に聞くことができなかった認知症患者本人の生の声は衝撃的だ。
認知症は本人だけでなく、介護する家族にとっても大きな問題だが、対処の仕方や考え方次第で、介護は難行苦行ではなくなる。
たとえば、便意をもよおしたときに、認知症の場合、衣服を脱ぐのに時間がかかって間に合わなくなったり、空間認知の障害でトイレの場所がわからなくなったりしてトラブルが起きがちだ。
認知症の義母を介護していた女性(インタビュー当時:63歳)は、義母がトイレ以外で粗相をしてしまったときにも、「こんなところで!」と怒るのではなく、考え方を変えれば気持ちが楽になると語っている。
「友達が教えてくれた言葉、2つ残ってて。何か、ちょっとトイレで、こう、失敗したりしたら、『そう来たか』って思うんだって。『そう来たか』って、こっちが思うと、じゃ、どうしようっていう、そのワンポイントのワンクッションがあるのね。(中略)だから、それ、スーッとした、私」
さらにその友人は、もう一つ、次のような言葉を教えてくれたという。
「『みんな死ぬんだ』って、最後は。自分もそうだけど、これはずっと続くことじゃない。『一時なんだから、今やれることやれ』って言われた、友達にね。ずっと10年看たんだよね、その人」
永遠に続くわけじゃない。だから、あとで後悔しないようにやるということだ。
これら患者や家族に対するインタビューを行なっている、富山大学大学院医学薬学研究部の竹内登美子教授(老年看護学)はいう。
「ネットで認知症を検索すると、徘徊や暴言、もの忘れなど困難事例が羅列してあって、まるでそれらが一挙にやってくるように思えて、本人も家族も『死にたい』と思ってしまったりします。
しかし、一挙に来ることはないし、認知症にはアルツハイマー型だけでなく、レビー小体型や脳血管性、前頭側頭型などがあり、認知症の種類によって症状も異なります。ですから、このサイトで紹介したインタビューから、実際の患者ご本人や介護者の方たちはどう考えて、どんな対応をしているのかを知れば、介護の参考になると思います」
データベースは、患者の家族でも「実父・実母を介護する人」「舅・姑を介護する人」などの立場別に分かれ、認知症もアルツハイマーその他のタイプ別に情報を得ることが可能となっている。
※週刊ポスト2013年10月11日号