20メートル先が霞んで見えない視界不良、高速道路まで通行止めになってしまうほど大気汚染が深刻化する中国――。これでも隣国の日本は「重大な健康被害はない」と言い切れるのだろうか。
9月下旬、江蘇省や河北省の一部では、1立方メートル当たり300マイクログラムを超える「PM2.5(微小粒子状物質)」が観測された。日本が定める環境基準値のおよそ10倍の濃度だ。
当の中国人はツイッターで、「巨大送風機をつくって汚染物質を小日本に吹き飛ばせば釣魚島も放棄するだろう」「日本人は濃度が少し上がるだけで騒ぐ臆病者」と相変わらずの強気だが、すでに中国は大気汚染で身を滅ぼしつつある。
PM2.5が人体に及ぼす健康被害については、さまざまな研究結果が出ている。北京大学が中国の4大都市(北京・上海・広州・西安)で行った調査によれば、2012年にPM2.5が原因と考えられる死者数が8572人いたという。
さらに、米マサチューセッツ工科大学の研究では、中国北部の石炭燃焼による大気汚染で、なんと5億人の平均寿命が5年短くなった可能性があると報告された。
大気中の微粒子に詳しい大分県立看護科学大学(生体反応学)教授の市瀬孝道氏に、PM2.5の“猛毒性”について聞いてみた。
「PM2.5には硫酸塩や硝酸塩といった無機塩のほか、中国の工場や家庭用暖房で使われている石炭を燃焼した際に発生する化学物質、その他、微生物の毒素成分などが黄砂や花粉に付着して日本に飛んできます。採取してみると、煤(すす)みたいに真っ黒です。
これらの成分にはアレルギー反応を高める作用があるばかりか、人間の髪の毛の太さの30分の1という小ささなので、肺の奥まで吸い込みやすく、呼吸器系の疾患につながることがあります。中国のように景色が霞むほどの濃度ともなれば、慢性気管支炎や肺気腫(COPD)の患者は増えて当たり前です」
さらに、肺がんや心筋梗塞、脳梗塞などへの影響を指摘する向きもある。「日本に飛散するときには濃度も薄まり、健康被害を心配するほどではない」と平然と話す専門家も多いが、前出の市瀬は「十分な警戒が必要」だという。
「福岡市で行った健康調査では、国が注意喚起の暫定レベルに定めた70マイクログラム以下の地点でも、くしゃみ、鼻水、喉の痛みや目の違和感を訴えた人が続出しました。特にアレルギー体質やぜんそく持ちのお子さんは症状が強く現れることがあります。
にもかかわらず、福岡市教委は140マイクログラムを超えると予測されなければ運動会の延期も要請しないといいます。140といえば影響は計り知れないほど想定外の数字なんですが……」(市瀬氏)
国も注意喚起のレベルを下げたり、全国統一の環境基準などを設けたりするなど対応に重い腰を上げているというが、「注意報や警報といった正式基準を設けるには法整備も必要で、できれば注意喚起にとどめたい」(環境省関係者)のがホンネらしい。
そんな呑気に構えているうちに、冒頭で触れた超警戒レベルの汚染が日本を襲ってくる。気象予報士によれば、「10月3日に西日本や東海付近、5日には東海や関東でも流れ込む恐れがある」という。
九州・中国地方の中には、年間2000回以上、基準値を超えるPM2.5が観測される地点もある。ここまできたら、国や自治体頼みでは身は守れない。