牛丼チェーンで知られる吉野家が一人鍋専門店「いちなべ家」をオープンし、話題となっている。これまでの小規模な一人鍋専門店の多くが女性向けであることを考えると、この新店舗も女性ひとり客を意識しているのだろう。ひとりご飯というとマンガ『孤独のグルメ』の井之頭五郎のように男性のイメージが強いが、女性も増えているという。少し前に流行した「おひとりさま」の少しぜいたくな雰囲気ではなく、普段着のひとりご飯だ。
仕事をしていれば女性でもひとりご飯は当たり前という30代の会社員女性は、すぐに食事が出てくる飲食チェーンをよくひとりで利用するという。
「昼前の商談と午後イチ商談のあいだが1時間しかなくて、移動に30分かかる。でも、ここでお昼を食べないと夜まで時間がない。そういうとき、すぐに食事が出てくるお店は本当に便利なんです。カフェはオシャレで過ごしやすいけれど、飲み物だけでも出てくるまで5分はかかるでしょう」
早い、安い、うまいが評判の飲食チェーンだけでなく、定食屋もよく利用するという。
「秋になったから秋刀魚が食べたいなと思っても、家に魚を焼くグリルがないんですよ。秋刀魚を食べるために友だちと予定をすりあわせて、なんて手間のかかることをするくらいなら、ひとりで食べに行った方が早い。特別な食事ではなくて、普通においしいご飯を食べたいだけなんですよ」
女性の食事というと、友人と連れだって、オシャレなカフェやレストランで、というイメージが今までは強かった。もちろん、そういった食事も続けているのだが、彼女のように、日常的にひとりご飯を楽しむ女性が増えている。
『全国飲食チェーン本店巡礼~ルーツをめぐる旅』著者で、外食チェーン店1号店ジャーナリストのBUBBLE-Bさんも、女性がひとりご飯をする姿が増えていると感じている。
「『Soup Stock Tokyo』のように、もともと仕事帰りや買い物帰りの女性が単独で利用する姿が多く見られるところもありますが、最近は、男性客が多かった飲食店でも明らかに女性の姿が増えています。店舗側も、ひとり客の女性が入りやすいように改装したりメニューに工夫を加え、男性イメージが強かった店に女性客が増えています。
たとえばラーメンの『一蘭』ではカウンター席の両脇に仕切りの板をつけ、完全にプライベートな空間が保たれるようにして女性客を増やしました。カレーの『CoCo壱番屋』もロゴマークや内装デザインを一新し、カフェのようなオシャレな雰囲気に。メニューにカロリーやアレルギー表示をつけ、ハーフサイズも用意するといった工夫が行われ、今ではお客さんの3割が女性だそうです」
前述の、先日オープンしたばかりの吉野屋の一人鍋専門店も明るくウッディな内装でカウンター席のみ、鍋の肉を変更できる、ご飯が白米と黒米で選べるなど鍋を食べたい男性だけでなく、女性のひとりご飯にも対応している。「女性のひとりご飯を意識した飲食チェーンは今後も増加していくでしょう」と前出のBUBBLE-Bさんは言う。
「初婚年齢が高くなり、ひとり暮らしを続ける人が増えています。また、結婚しても働き続ける女性が増えていますので、飲食チェーンがこれから事業展開するうえで、女性の一人客を意識するのは見逃せない重要なポイントです」
日本人女性の平均初婚年齢は、2012年で29.2歳。1980年と比べると4.0歳上昇している(厚生労働省調べ)。ひとり暮らしの期間が長くなっているのが分かる。
年齢階級別の労働力率をみると、日本人女性は「25~29歳」と「45~49歳」がピークで「35~39歳」を底とするM字型カーブを描く。結婚して出産、育児のため仕事を完全に辞める「35~39歳」の労働力率が低下する形が高度成長期に形成されたためだが、このM字の底の値は1975年と比べると20ポイント超上昇、10年前より8.8ポイント上昇し67.0%となった(総務省調べ)。環境の変化にかかわらず働き続ける女性が増えているのだ。
海外、特に欧米ではおいしいひとりご飯の場所を探すのがとても難しい。とくに女性がひとりで入れる場所は少なく、普段着の飲食店でも同行者をみつけないとならない場合が多い。ところが、日本はひとりご飯の場所を広げたい女性たちへ向けて、飲食店が姿を変えてくれている。7年後、東京五輪が行われるころには、女性がひとりご飯を気軽に楽しめる、世界一、滞在しやすい国になっているかもしれない。