滋賀県守山市の「ピエリ守山」。2008年に鳴り物入りでオープンした、滋賀県下でも最大級のこのモールは、今や買い物ではなく、“廃墟マニア”の名所となっている。そして、10月上旬、売却も発表された。そこでは、かつて店内にあふれた家族の楽しげな声は消え、代わりにこんな無機質なアナウンスが繰り返し流されていた。
「カメラ、ビデオ、携帯電話による撮影はご遠慮くださいますようお願い申し上げます」
現在、営業中の店舗は、1階のペットショップと旅行会社、英会話教室などが計6店舗。フードコートでは、閉店したばかりの元カフェで、撤去作業が続いていた。9月末で閉店が決まった、あるフードコートのスタッフは、匿名を条件にこう言った。
「うちは、常連のお客さんもいましたし、赤字ではなかったので、ギリギリまではと思って続けていたんですが、仕方ないですね。この地域にショッピングモールが多すぎたのではないでしょうか」
フードコートには750人が座れる椅子がある。だが、記者が行った時には誰ひとりいなかった。
「開店当初はよく来ていたんですよ。近所に大きな施設ができたのが嬉しくて」
そう話すのは、店内を歩いていた地元の40代夫婦。
「でも、ここから車で30分のところに、新しいモールができたんですよ。映画館もあるし、テナントも有名なところが多くて、そっちに通うようになりました。それに比べるとこっちは、住宅地から遠いんですよね」
売り文句だったはずの琵琶湖を臨める風光明媚な立地も、客にとってはデメリットだったということなのか。
夫婦の話に出てきた新しいモールとは、隣接する草津市内に、ピエリ開店の2か月後にできた「イオンモール草津」のこと。さっそく向かってみることにした。
そこはピエリから車で30分ほど、十数㎞離れたところにある。車社会では、「ちょっとそこまで」の距離。平日だというのに、駐車場は8割近くが埋まっていた。同じモールとはいえ、ピエリとは活気がまるで違う。
「お買い物のついでにお風呂に入ってね、その後、ご飯を食べて帰るのよ。半日はここで過ごしますね」
そう教えてくれたのは、60代の女性。ここには、スーパー銭湯も併設されているのだ。
「銭湯に行く、とは言えなくても、買い物に行く、なら家族にも言える(笑い)。若い人も慣れているのか、上手に時間を過ごしていますよ。でも、ピエリにはこういう買い物以外の場所がなかったですね」
人を集めるモールがあれば、見向きもされなくなってしまうモールもある。専門家は、ピエリ守山の現状をどう見ているのだろうか。
日本ショッピングセンター協会の今井隆さんに聞くと、ため息交じりにこう語った。
「悲劇としか言いようがありません。もはや何でもいいから大きなハコを作れば人が来てくれるという時代は終わっています。
テナントを吟味し、目玉を作らないとやっぱり厳しい。ピエリ守山は初めてのケースではなく、今後も淘汰されるモールが各地で続出するでしょう」
ショッピングモールの中でも、儲かるところ、潰れるところの二極化が始まっているというわけだ。
※女性セブン2013年10月17日号