現在、国内には約150万人の看護師がいるが、その労働環境の実態は極めて過酷だ。そんな労働環境に立たされる看護師に、追い討ちをかけるような発表があった。
9月12日、政府の規制改革会議が規制見直しを検討する項目のひとつとして、「看護師業務の範囲拡大」を挙げたのだ。注射や薬剤投与などの医師による医療行為を看護師が“代行”することで、医師を高度な治療に専念させ、より多くの患者を診察できるようになるという。
労働経済ジャーナリストの小林美希さんは、「業務拡大で現場は大混乱に陥る」と危惧する。
「人手不足による長時間勤務、夜勤の多さなどで、すでに疲労困憊の状態にあるのが現実。これ以上看護師の仕事を増やせば、医療現場はさらに混沌とし、変わり果てた姿になるかもしれません」
実は、業務拡大の動きは今に始まったことではない。日本医療労働組合連合会(日本医労連)の三浦宜子・書記次長が解説する。
「前の自民党政権時代の2009年ごろから看護師の業務拡大がずっと議題に挙がっていました。当初は『特定看護師』という、大学院などを出て初めて得る資格についての議論だったのが、今回“診療の補助”という名目で、一般の看護師の業務まで拡大しようということになったのです」
なぜ、国は規制緩和に執心するのか。小林さんは、「安上がりの医療と、金儲けのため」と断言する。
「看護師の不足と同様、医師も慢性的に不足しています。しかし、医師を育てようとすると費用も時間もかかる。看護師の業務を拡大し医師の代わりをさせることで、てっとり早く急場をしのげる。さらに“同じ医療行為なら人件費の安い看護師にやらせれば安く上がる”との安易な発想が見え隠れしています。
また、これまでは医師の数によって対応できる患者の数には限界がありましたが、看護師が代わりに医療行為をすることでより多くの患者に対応できるようになる。安い人件費で多くの患者を捌くことができれば、当然病院は儲かりますよね」(小林さん)
議論のなかで、国は看護師が行う「特定行為」約40種類をリストアップしている。日本医労連の山田真巳子・中央執行委員長が憤る。
「このリストには、“経口・経鼻挿管”“動脈ラインの確保”など、これまで看護師がほとんど関与しなかった医療行為も含まれています。中には、看護師が行うにはリスクが高すぎるとして、医療関連の学会などが反対する医療行為も多いのです。
国はそれほど危険な行為を診療の補助として強引に合法化しようとしている。しかも、これらの医療行為には研修が義務づけられておらず、一般の看護師でも医師の具体的な指示があれば行えてしまいます」
※女性セブン2013年10月17日号