親孝行はしたい。ただ何をすればいいかわからない、という人は多い。そんな時、意外だがデジタル製品も喜ばれる。高齢者とは相性が悪そうだが、最近のデジタル製品は初期設定さえ整えれば操作が簡単なのだ。
メールで送られてくる写真が表示される、デジタルフォトフレームもその一つ。東京郊外で一人暮らしをする84歳の女性は、「私は何もしなくても、新しい写真がどんどん届くんですよ」と声を弾ませる。毎日のように送られてくる新しい表情に、「一緒にいるような気持ちになれます」と、翌日が待ち遠しいという。
80歳の誕生日に電子書籍リーダー「キンドル」を息子からもらったという女性は「すぐにほったらかしになったけど」と笑いながらも、「契約は息子名義なのでアマゾンで何を買っても、支払いは息子持ちなんです。その心遣いが嬉しかった」
一方、アナログな手紙に喜ばない親たちはいない。
「おふくろは、耳が遠いから電話が苦手。目も悪くなっている。でも、頭はしっかりしているから」と、横浜で会社を経営する61歳の男性。東北で暮らす80代の母親への手紙は常に拡大コピーして、読みやすくしてから送っている。
「何度も読んでいるって、会うたびに言ってますよ」
都内に住む介護サービスの職員は、こんなシーンを目撃したことがあるという。
「60歳くらいの息子さんが父親の戦争体験をじっくり聞いてあげているんです」
痴呆が進み、同じ話を何度も何度も繰り返す父親は、最後には必ず、戦時歌謡「麦と兵隊」を口ずさむ。するとあるとき、息子も唱和し始めた。びっくりする父親に、息子は「親父のために覚えたんだ」と種明かし。
父親はそれを聞いて、号泣した。その後、スナックに行って、昭和歌謡を一緒に歌うこともあるという。
往事の記憶は元気の源になる。ケアマネージャーで、老人ホームに10年近く勤務した松雪日出夫氏は言う。
「そもそもお年寄りはみな、自分を『役立たず』と思っています。だから『早く死にたい』なんていうことも口にするんです」
ところが、かつて関わっていた仕事の話が始まると、表情がイキイキするのだ。
「新幹線の路線工事に携わっていたという人がいて、当時の工事現場の写真を見て表情を緩ませていた。顔つきが若返っていましたね」
続いて、足腰の弱った85歳父のために、父の郷里を撮影してきたという大阪在住57歳男性の話を聞こう。
「父が生まれ育ったのは瀬戸内海の小さな漁港。その風景を写真に撮って、アルバムにして持っていってあげると、涙を流して喜んでくれました。父は少し痴呆が入っていますが、昔のことは鮮明に覚えていた。『昔は、この磯でよく釣りをしたんだ』と少年期を思い返していましたね」
※週刊ポスト2013年10月18日号