9月28日の公開以来、連日満員の大ヒットとなっているのが、是枝裕和監督(51才)がメガホンを取った映画『そして父になる』だ。興行成績は2週連続で1位、すでに興行収入は13億円を突破した。そんななか、この感動大作に対して、複雑な表情を浮かべる1人の女性がいる。
「この作品は自分たちがモデルになっているのかな…と思いました。私たちは、ずっと苦しみながら生きてきました。それがこういうかたちで映画になって…どうも納得できないんです」
女性の名前は城間美津子さん(42才・仮名)。ジャーナリストの奥野修司さんが書いたノンフィクション『ねじれた絆――赤ちゃん取り違え事件の十七年』(文春文庫)に登場する人物である。
この『ねじれた絆』は、『そして父になる』のエンドロールに“参考文献”としてクレジットされている作品。1977年に沖縄で起きた赤ちゃん取り違え事件を17年間にわたって追いかけたルポルタージュで、取り違えられた当の赤ちゃんの1人が、美津子さんだ。
『そして父になる』と『ねじれた絆』には、多くの類似点が存在する。両作品とも取り違えが発覚したのは、子供が6才のとき。映画では、その後、病院との裁判と同時進行で両家の家族の交流が始まり、週末ごとに子供を交換して泊まらせ、最終的には小学校入学直前に実の親が血のつながった子供を引き取る…という流れなのだが、これも『ねじれた絆』とまったく同じである。そのほか、ふたつの家族の設定も似ている。
さらに類似点は細部にまで及ぶ。『そして父になる』では、取り違えが発覚した際、病院側から半年後をメドに交換してはと告げられ、リリー・フランキー演じる斎木家の父が「犬や猫じゃあるまいし」とあきれ果てるシーンが登場する。
この場面について、あるインタビューで是枝監督は<(あのセリフを)言ったのは実はうちの嫁さんだったんです>と語っていたが、『ねじれた絆』でも、病院側からわずか数か月後の交換を勧められたことについて、美津子さんの育ての母親が<犬や猫の子供ではない>と、その苦悩を日記に綴っていた描写があるのだ。
美津子さんは、実際に映画を見た感想をこう述べた。
「交換前に洋服とか自分の荷物をまとめるシーンなんかは、自分の体験と重なりました。でも、その後は子供が苦しんだ部分はサラっと流されて…。本当に私たちの“心の傷”をわかったうえで映画にしているのかなって。ラストも中途半端な終り方で…。違和感が残りました。なんだか納得できないんです」
彼女の目には映画が、自分たちを軽く扱っているように映ったのかもしれない。
※女性セブン2013年10月24・31日号