狭小の個室を住居として提供する「違法ハウス」が全国に急増中だ。社会的弱者の切実なニーズが新手の貧困ビジネスを生み出している。果たして違法ハウスとは、どのようなものなのか。
薄い壁で仕切られた3畳足らずの個室に窓はない。室内は隣室の寝台部分が大きくせり出す構造で圧迫感がある。居室として使えるのは2畳ほど。備え付けのテレビやエアコンが無ければ、住環境は独居房とさほど変わらないだろう。建築基準法が定める居室の基準は無視され、火災時の避難経路も確保されていない。家賃は月4万5000円。これに水道光熱費5000円が加わる。キッチンとトイレは共同で、シャワーは有料だ。
これは、大手ネットカフェ業者が東京・中野で運営していた「違法ハウス」の概要だ。違法ハウスとは法律や条例を無視した寿司詰め状態の狭小の部屋で、格安で提供される。業者が「シェアハウス」と謳い運営していた施設は木造2階建ての住宅を改築したもので、37ある個室は常時ほぼ満室だった。
昨年、この施設に東京消防庁の調査が入った。業者は「施設は24時間利用可能なレンタルオフィス」と主張したが、共同住宅に課せられた防火設備の不備で警告を受けた。その後、業者はこの施設を突如閉鎖した。貧困問題に詳しい戸舘圭之弁護士はこう話す。
「共同住宅の安全基準は、建築基準法や消防法、自治体の条例で特に厳しく定められています。しかし業者は共同住宅であることを認めず『レンタルオフィス』と言い張って法の網をかいくぐろうとした。多くの安全基準や条例を無視しており劣悪な環境であるだけでなく、安全上も大きな問題を抱えています。まさに典型的な違法ハウスです」
※SAPIO2013年11月号